サイボウズは5月19日、kintoneの活用アイデアを共有するイベント「kintone hive 2026」を札幌で開催した。同イベントでは、キャリア 情報システム部 係長の古内裕巳氏が「個別最適の『迷子』から、全体最適の『デザイナー』へ。」と題し、kintoneの設計が複雑化した状態から、kintone SIGNPOSTを活用して全体最適の視点を獲得するまでの歩みを紹介した。
Access依存から始まった業務基盤の課題
キャリアは札幌市を拠点に、コールセンター事業を中核に、通信サービスやフィールドセールスなどを展開する総合ソリューション企業だ。古内氏は情報システム部に所属し、AIとDX推進のリーダーを務めている。
同社のkintone環境は37個のアプリで構成され、顧客マスターには15万件を超えるレコードが登録されている。また、グループ会社3社でも共通のマスターを利用している。しかし、2020年当時、基幹業務を支えていたのは古内氏が一人で構築したMicrosoft Accessだった。
「Accessを操作できるのは私だけだったので、もちろん、メンテナンスも私しかできませんでした。コールセンター事業で新しい商材が増えるたびに、クエリの編集やテーブルの再定義が必要になります。しかし、社員が利用している時間帯にはメンテナンスできません。『自分が倒れたら本当に会社が止まる』という不安を抱えながら作業していました」と古内氏は振り返る。
450フィールドに膨れた“パッチワーク”アプリ
そんな中で出会ったのがkintoneだった。営業部門から寄せられるさまざまな要望を次々に取り込みながら改善を続けた結果、顧客管理アプリは巨大化していった。顧客管理アプリには450個のフィールド、150個の計算式、300個の並び替え設定が存在する状態となった。
「1つのアプリにすべてを詰め込んだ結果、こうなってしまいました」と古内氏は苦笑した。300個の並び替え設定を5mm間隔で並べると、その長さは約1.5メートルにもなるという。
「顧客管理アプリは、つぎはぎのパッチワークのような状態でした。後戻りしたくてもできない、重くても止められない。現場を思うあまり、私が作った迷宮の中に現場を閉じ込めてしまっていました。もはや業務改善ではなく、修行のような罰ゲームのアプリになっていました」と古内氏は語った。
SIGNPOSTで「足し算」から「引き算」の設計へ
転機となったのは、サイボウズ公認オフィシャルパートナーであるHokkaido Design Codeとの出会いだった。同社はkintoneを活用したシステム開発やDX推進支援を行っており、キャリアはコンサルティング契約を締結。複雑化した顧客管理アプリを見た同社の木村琴恵氏から提案されたのが「kintone SIGNPOST」だった。
kintone SIGNPOSTは、継続的な業務改善を実現するための考え方やノウハウを体系化したコンテンツで、「経験者が持つコツ」を44のパターンとして整理している。SIGNPOSTの考え方に沿ってアプリを見直した結果、450個あったフィールドは300個へ、150個あった計算式は50個まで削減された。
「『何のためにあるのだろう』というフィールドがたくさんありました。業務そのものを洗い出し、見直す環境ができたことが大きかったと思います」と古内氏は話した。
さらに、「把握不能なほど複雑だった構造をひも解いてもらい、SIGNPOSTの考え方で統一することができました。現場の迷いが解消されたのと同時に、私自身の迷いも消え、その先が見えるようになりました。プロの凄さはセンスではなく、SIGNPOSTという『型』なのだと実感しました」と振り返った。
なお、古内氏が特に気に入っているSIGNPOSTのパターンは「2-19 データの断捨離(システム移行時の移行データは最低限に)」だという。
AIを“設計思想の門番”に、SIGNPOSTを判断基準に
SIGNPOSTによる改革を進める中で、古内氏はAI活用にも着手した。同氏が構築したAI「金太郎」には、kintone SIGNPOSTの内容を学習させており、設計思想の門番として機能しているという。
金太郎は、設計チェックや将来予測、知識継承などを担うほか、設計方針に対して厳しい指摘も行う。例えば、新機能を追加しようとすると、「その設計はSIGNPOSTの『引き算の美学』に反していませんか」「またパッチワークを作るつもりですか」といった問い掛けを返してくるという。
「自分が教えた理想をAIに突きつけられる。悔しいけれど、最高の相棒だと思った瞬間でした」と古内氏は語った。
AI活用のきっかけは、「kintone アプリケーションスペシャリスト」の試験勉強だったという。問題作成にAIを使った経験から、「SIGNPOSTも活用できるのではないか」と考えたことが出発点だった。
SIGNPOSTを取り入れた設計思想は、実際のシステム構築にも生かされている。その一つが、キャリアと74社の代理店をつなぐ「パートナーズゲート」だ。このシステムでは、「FormBridge」と「kViewer」という2つのプラグインを活用している。
「この2つを組み合わせることで、サイボウズさんには申し訳ないのですが、kintoneのアカウント数を大幅に削減できました」と古内氏は笑った。
導入前は74社分のライセンス費用として月額14万6,520円が必要だったが、FormBridgeとkViewerの活用によって月額6万6,000円に削減。月額8万520円、率にして55%のコスト削減を実現した。
さらに、最大1000人まで同一料金で利用できるため、代理店数が増えてもコストを抑えながら運用できるという。
現場からも、「入力作業が大幅に速くなった」「半日かかっていた作業が30分で終わるようになった」「必要な情報がすぐ見つかる」「部門間連携が円滑になった」といった声が寄せられている。
システムづくりから「組織をデザインする」へ
こうした成果が評価され、キャリアは2026年にサイボウズのオフィシャルパートナーとなった。
講演の最後に古内氏は、自らの考え方の変化について次のように語った。
「私が意識しているのは、システムを作ることではありません。全体を見渡しながら組織をデザインすることです。これに特別な才能は必要ありません。kintoneと正しい理論、そしてAIという相棒。この3つが揃えば未来をデザインする力を持てます。設計が変われば業務が変わる。業務が変われば人が変わる。人が変われば組織が変わる。組織が変われば業界が変わる。あなたもデザイナーになれます。共に新しい組織の形をつくりましょう」



