攻撃は最大の防御、町田ゼルビアが目指す新たな守備哲学
攻撃は最大の防御──。この古くからある格言を現代サッカーにどう落とし込むか。FC町田ゼルビアは今、リードを奪った後の攻撃的な守備スタイルの確立に挑んでいる。アジアの頂点を決めるアジア・チャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)での勝利から逆算し、新たな戦術模索が続く。
無失点でも満足せず、中山雄太が語る「完璧な守備」への道
3月16日、全体練習を終えた中山雄太選手は、記者団の前に立ち、率直な思いを口にした。「僕らが目指すところはまだまだ遠い」。この発言は、チームが公式戦3試合連続で無失点を達成していたにもかかわらず、物足りなさを示すものだった。
14日のJ1百年構想リーグで柏レイソルに1-0で勝利し、ACLE決勝トーナメント1回戦を含む3試合でクリーンシートを守り切っていた。しかし、中山選手がこだわるのは結果そのものではなく、無失点で試合を終えるためのプロセスである。
「ゼロで抑えてはいるけど、単に守るだけではなく、相手にボールを渡さず、攻撃をしながら守備も完結する形にしていかないと」と中山選手は強調する。ACLEで世界の名だたるストライカーとの対戦を控えているからこそ、強い危機感を抱いている。
「中東のクラブ相手に、守りを固めるだけでは防ぎきれない。じり貧でやられるだろう」と、守備一辺倒の戦術では限界があると指摘。有能なストライカーたちに多くのチャンスを与えれば、いつかはゴールをこじ開けられてしまうという現実を見据えている。
試合運びの課題、リード後の攻撃的姿勢の重要性
しかし、この挑戦は道半ばだ。22日の浦和レッズ戦、28日の川崎フロンターレ戦ともに、前半を1-0で折り返しながら、後半開始15分までに同点とされた。ハーフタイムを経て、反撃に転じた相手の勢いに飲み込まれた形だ。
PK戦の末に川崎を下した後、黒田剛監督は試合運びに注文を付けた。「相手の攻撃をしのぐというよりは、もっと攻勢に出ていくような戦い方をしていくことが重要だった。ハーフタイムで指摘したのだが……」と落胆を隠さなかった。
相手を押し返すために求められるプレーは何か。川崎戦後に選手たちが口々に語ったのは、マイボールの局面での時間の使い方だ。3バックの中央で守備を統率した岡村大八選手は「後半はうちの攻撃が終わるのが早かった」と振り返る。
「サイドからのクロスはうちの強みだが、味方につながらなければ相手ボールになって、また守備を強いられる。相手のゴール前でじっくり回しながら崩すとか、臨機応変に2点目を取りにいく戦い方がまだまだ必要」と、攻撃の持続性の重要性を指摘した。
攻撃の核・相馬勇紀も強調する「攻撃の連続性」
攻撃の核を担う相馬勇紀選手も「セカンドボール(こぼれ球)を拾ったら、何回も攻撃を続けられるような形をつくりたい」と強調。ボールを失わずに攻撃を継続することの重要性を訴えた。
とはいえ、疲労でミスが生まれやすくなる後半にボールを持ちすぎたり、余計にパスを増やしたりすれば、一転してピンチにさらされるリスクもはらむ。岡村選手は「自分のところでボールを失いたくないのが選手心理。失点を嫌う監督なので、なおさら選手のメンタルはネガティブな方向にいきやすくなる」と、プレー選択の難しさを明かす。
今季の町田はJ1百年構想リーグ8試合のうち7試合で先制している。リードした後の試合運びは、チームが向き合わなければならない重要な課題だ。ACLEを見据えれば、なおさら試行錯誤を止めるわけにはいかない。
ACLE制覇へ向けた最終調整、残り3試合での模索
中山選手はあらためて決意を語る。「ACLE(で勝ち残った対戦相手)は危険な選手が多く、ボールを渡してしまえば失点に直結してしまう。やっぱり、自分たちがボールを失わずに守備が完結する形を目指していかなければ」。
ベスト8以降の戦いが幕を開けるACLEファイナルズまで、J1のリーグ戦は残り3試合。アジアの頂点に登り詰めるための模索が続く。町田ゼルビアが目指す「攻撃しながら完結する守備」が、ACLEの舞台でどのような成果を生み出すか、サッカーファンの注目が集まっている。
チームは単なる守備の強化ではなく、攻撃的な姿勢を持ちながら失点を防ぐという、一見矛盾する課題に挑戦し続けている。この挑戦が成功すれば、日本サッカーに新たな戦術の可能性を示すことになるだろう。



