回り道を力に変えた31歳ランナーの飛躍
3月8日に開催された名古屋ウィメンズマラソンで、ダイハツ所属の大森菜月選手(31)が見事な走りを見せた。強風が吹く厳しいコンディションの中、2時間23分45秒のタイムで5位に入賞。日本勢では3位という好成績を収めた。
3年連続で自己ベスト更新
レース前、大森選手は「私はノーマーク」と控えめに語っていたが、スタート直後から先頭集団に食らいつき、30キロを過ぎても日本人ランナー3人の一角に残り続けた。この結果により、名古屋ウィメンズマラソンでは3年連続で自己ベストを更新。2年前から実に3分以上もタイムを短縮する驚異的な成長を見せた。
今年6月で32歳を迎える大森選手は、この年齢での急成長について「5年くらいかけてやってきたことが、やっとつながってきた。あきらめなかった自分を少し、誇りに思います」とほほ笑みながら語った。
苦難の連続から3年間の空白
立命館大学時代には駅伝で区間賞を獲得するなど、早くから期待されたランナーだった。しかし、2019年の初マラソン以降は苦難の連続が続いた。タイムが伸び悩み、2021年の名古屋出場後は相次ぐけがに見舞われ、3年間マラソンから離れることを余儀なくされた。
今年のレース後、当時を振り返った大森選手は「大学、高校の後輩が活躍している姿は正直、かなり悔しかった。苦しかった」と涙ながらに語った。競技から離れていた期間の葛藤がにじむ言葉だった。
徹底的な自己分析が成長の鍵
年齢を重ねてからの飛躍の陰には、徹底的に自分を知ろうとする姿勢があった。どこかに痛みが出れば、人体模型が見られるアプリを開き、原因を探った上でトレーナーに相談する。周囲から「変態」と言われるほど知識を深め、治療の流れや練習再開への道筋を明確にイメージできるようになった。
感情の整理にはノートを使うことも習慣化。誰に嫉妬したのか、それは自身にどんな欲求があるからなのか。人に話せない気持ちも書き記し、走る意味や目標を明確にしてきた。こうした内省的なアプローチが、競技への向き合い方を根本から変えていった。
回り道にこそ成長のヒント
大森選手は回り道にこそ成長のヒントがあることを身をもって知っている。昨年11月の実業団駅伝シーズンには、元からけがしていた右膝に加え、左膝にも痛みを抱えた。冬の帰省期間は毎日、近所の公園で2時間のウォーキングを続けた。
「私、(ファッションショーの)ランウェーを歩くのかな」と自ら笑い飛ばすほど歩き続けた成果は、練習復帰後に現れた。同僚の加世田梨花選手から「菜月さんの走り、変わりましたね。何したんですか」と驚かれるほど、膝に負担がかかる脚の振り出しの癖が消えていたのだ。
ロサンゼルス五輪への展望
「年を取るたびに自己ベストを更新する選手もいるんだと後輩たちに見せられたら、自分が選手でいる価値があるのかな」という思いで臨んだ今年の名古屋で、大森選手は再び記録を塗り替えた。
さらに、2028年ロサンゼルス五輪の選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場権を初めて獲得。「ロスの代表をぶれずに目指していきたい」と力強く宣言した。かつてなら「大きな声では言えないけど」と添えていたような控えめな表現は、もうどこにもなかった。
回り道を重ね、苦難を乗り越えてきた31歳のランナーは、新たな高みを目指して走り続ける。その姿は、年齢や経歴に関わらず、挑戦し続けることの価値を私たちに教えてくれる。



