成年後見制度利用で警備員が失職、警備業法の旧条項は「違憲」と最高裁が初判断
最高裁大法廷(裁判長・今崎幸彦長官)は2026年2月18日、成年後見制度の利用者が警備員に就けないとしていた警備業法の「欠格条項」が憲法に違反するか争われた訴訟の上告審判決で、同条項を「違憲」とする初の判断を示した。最高裁が法律の規定を違憲としたのは戦後14例目となる。一方、1審と2審が認めた国の賠償責任は否定し、原告の請求を棄却した。
裁判官の意見分かれる中での多数意見
裁判官15人のうち、9人が多数意見を支持。5人は「国に賠償を命じるべきだ」とする反対意見を、1人は結論は支持するものの理由づけが異なる「意見」を付けた。このような欠格条項は警備業法を含む約180の法律に定められていたが、2019年の法改正で一括削除されている。
原告は軽度の知的障害のある30歳代の男性。警備会社に勤めていたが、2017年に成年後見制度を利用し、財産管理を支援する「保佐人」を付けたところ、条項を理由に雇用契約を終了させられた。2018年、国に100万円の賠償を求めて提訴した。
最大の争点は憲法違反の有無
最大の争点は、欠格条項が憲法に反するかどうかだった。国側は「人の生命や身体を守る警備員には、健常者と同程度の判断能力が求められる」とし、条項には合理性があると主張していた。
大法廷はまず、前身となる制度下で条項が設けられた1982年時点の知見では、制度の対象者が警備業務を適正に実施できないとみることに「合理性があった」と指摘。障害を持つ人の判断能力を個別に審査する規定が設けられた2002年の時点でも、「違憲ではない」とした。
社会の変化を背景に違憲判断
一方で、2014年に障害者権利条約を批准し、2016年に障害者差別解消法が施行されるなどした「事情の変化」に着目。社会の中で障害の捉え方が変わり、「障害を理由とする労働者差別は禁止されるべきだとの考え方が確立した」と述べた。
その上で、遅くとも男性が退職した2017年3月時点で「一律に警備員になれないのは、看過しがたい不利益となっていた」とし、条項は「職業選択の自由」を保障した憲法22条や「法の下の平等」を定めた同14条に反すると結論づけた。
国の賠償責任は認めず
国の賠償責任については、「社会や国民の意識の変化は容易に見てとれない。条項を違憲とする学説はほぼなく、裁判例もなかった」とし、国会が立法措置を怠ったとは言えないと判断した。
この日の判決により、条項が「違憲」とされた2017年3月時点から条項が一括削除された2019年までの間に原告のように職を失った人が、職場復帰を求める訴訟を起こした場合は、請求が認められる可能性がある。
訴訟では、2021年の1審・岐阜地裁と2022年の2審・名古屋高裁の判決はともに条項を違憲とした上で国に賠償も命じ、国が上告していた。警備業法を所管する警察庁は「違憲判決を厳粛に受け止めたい」とのコメントを出した。
原告男性「認められてうれしい」
原告の男性は東京・霞が関で記者会見し、「認められてうれしい」と違憲判断を示した判決を歓迎した。男性は2014年に岐阜県内の警備会社に入社し、駐車場の交通誘導などを担当。車を渋滞させずスムーズに誘導できたときにやりがいを感じていた。
突然働けなくなり、「障害があってもできることはできる。自分と同じような人はもう出てほしくない」との思いから提訴して、この日まで8年を要した。会見に同席した原告代理人の熊田均弁護士は「欠格条項が障害者の職業選択の自由を奪うものと認めた点は評価できる」と言及。
ただ、1、2審判決が認めた賠償請求は退けられ、「国会に甘い判断で残念だ」と悔しさもにじませた。その上で、「国には障害者の個々の能力を尊重し、過剰な制限をしないような制度づくりをしてほしい」と訴えた。
専門家「国への強いメッセージ発した」
学習院大の尾形健教授(憲法)は、「たくさんの個別意見が付き、社会における障害の捉え方の変化をどう評価するか、裁判官の間でかなりの議論が重ねられたことがうかがえる。多数意見は国の賠償責任を認めず、欠格条項が違憲となったのも原告の退職に近い時期とする慎重な内容だった」と指摘。
さらに、「原告と同じように職を失った人々の救済にどの程度つながるかは不透明だ。ただ、障害者を一律に排除する施策は今後許されないとの国への強いメッセージを発したとは言える」と評価した。



