法制審再審見直し案に元高裁判事が強い懸念「実務からの明らかな後退だ」
法制審議会(法相の諮問機関)が平口洋法相に答申した再審制度見直しの要綱案に対して、門野博・元東京高等裁判所部総括判事(82)が厳しい評価を示している。同案は再審請求を早期に選別するスクリーニング導入、検察証拠開示ルールの新設、開示証拠の外部公開禁止を柱とするが、門野氏は「裁判所が積み重ねてきた努力を無にする内容」と指摘する。
布川事件の経験から見える再審実務の重要性
門野氏は2008年、茨城県で発生した布川事件の即時抗告審を担当し、再審開始を支持する決定を下した経験を持つ。当時、検察が再審請求後に初めて開示した証拠が決め手となり、2011年に再審無罪が確定している。この経験から、門野氏は「犯人性を疑わせる証拠が未提出のまま有罪が確定する現実」を目の当たりにし、証拠開示の重要性を強く認識するに至った。
その後も東京電力女性社員殺害事件などの再審請求審において、証拠開示を強く促してきた門野氏は、従来の再審事件では裁判所が検察を説得して開示された証拠が大きな役割を果たしてきたと強調する。しかし今回の見直し案は、裁判所の積極的な証拠開示への取り組みを阻む可能性があると危惧している。
スクリーニング導入と証拠公開制限への懸念
最大の懸念点として門野氏が挙げるのは、再審請求を早期に選別するスクリーニング制度の導入である。この仕組みにより、正当な再審請求が早期に棄却される危険性が高まると指摘する。さらに、開示された証拠を弁護側がメディアなど外部に公開することを禁じる「目的外使用」の禁止規定についても、再審手続きの透明性を損なう可能性があると懸念を示している。
特に問題視しているのは、裁判所の再審開始決定に対する検察の不服申し立て禁止が盛り込まれていない点だ。門野氏は「これまでの実務からの明らかな後退であり、冤罪救済の機会を狭める内容」と述べ、司法制度改革の方向性に疑問を投げかけている。
証拠開示を巡る司法と検察の緊張関係
門野氏の経験に基づく指摘は、再審制度を巡る司法と検察の緊張関係を浮き彫りにしている。従来の再審事件では、裁判所が証拠を出し渋る検察を粘り強く説得し、開示にこぎつけたケースが少なくなかった。しかし今回の見直し案は、こうした裁判所の積極的関与を制限する方向性を示している。
「裁判所が証拠開示に熱心に取り組むことを阻もうとしているかのようだ」と門野氏は表現する。証拠開示のプロセスが制限されれば、冤罪救済に必要な情報が十分に得られなくなる可能性が高まるというのだ。
法制審議会の答申を受けて、今後法務省が具体的な法案作成に着手する見通しだが、門野氏のような実務経験者の懸念は、再審制度のあり方を考える上で重要な視点を提供している。冤罪救済と司法手続きの効率化のバランスが、今後の議論の焦点となるだろう。



