茨城・神栖市長選を巡る票の審理
昨年11月に行われた茨城県神栖市長選を巡り、現市長の当選を無効とした県選挙管理委員会の裁決書には、両陣営の要望などを受けて審理された231票の写真が添付されていた。誤字や脱字で判断が難しい票が多く、自治体職員が開票作業に苦心する実態が浮き彫りとなった。年末の県議選や来年春の統一地方選を控え、投票用紙の書き方の周知や、法・判例に基づく開票作業の徹底が求められている。
誤字脱字と判断の実例
裁決書に添付された写真には、「木内としはる」「右田進」といった記載が並んだ。市選管も県選管もそれぞれを、現市長・木内敏之氏(65)と落選した前市長・石田進氏(67)の有効票と判定した。中には「田」とだけ書かれた票(石田氏の有効票)や、「水内」と読める票(木内氏の有効票)もあった。
一方、「石田三成」と書かれた票は、「歴史上の著名な人物の氏名を記載した」として、市選管、県選管ともに無効と判断。また、候補者名が正しく記載されていても、欄外に印刷された注意事項の一部を丸で囲んだ票や、欄外に「定子」と書かれた票は、公職選挙法で無効とされる「他事記載」に該当するとして、いずれも無効票とされた。
県選管の判断基準
公職選挙法は「候補者の氏名を自書しないものは無効とする」と規定する一方、投票者の意思が明白であれば有効とすることも定めている。最高裁は、誤字脱字があっても「記された文字の全体的考察」でどの候補者に投票したかを判断できれば有効票とできると過去に判断している。茨城県選管は、民主主義の根幹である選挙では投票者の意思を最大限尊重する必要があるとの判例に従い、審理に臨んだという。
しかし、別の最高裁判例では、「記載文字の拙劣、誤字、脱字」は投票の意思を認める妨げにならないとしつつ、「特定の候補者の氏名との若干の類似性を手がかりにして」有効票とするのは「容認しがたい」ともしており、開票現場での判断の難しさがうかがえる。
自治体の実情
県内のある自治体の選管担当者は、「名前や職業などで判断に迷う票は毎回ある」と打ち明ける。この自治体では、開票時に知識や経験が豊富な職員を配置し、判例が記載された書籍などと照合しながら判断しているという。
各自治体を悩ませる票を減らそうと、県選管は4月28日の裁決結果の公表に合わせて「投票用紙の書き方について」と題したポスターを公開。氏名以外の記号やいたずら書きは無効票になり得ると周知した。大井川知事も5月の定例記者会見で、「投票用紙に氏名を書くことが大事だということは、今回のケースで世の中に一定の周知ができたのではないか」と述べた。
高裁審理へ
県選管の裁決では、木内氏の有効票に含まれていた「だんごさん」「まんじゅうや」と書かれた票の扱いが焦点となり、この2票の判断が覆ったことで木内氏が当選無効とされた。木内氏陣営は他の229票にも結果が変わり得るものがあると考え、5月27日、県選管の裁決取り消しを求めて東京高裁に提訴した。
高裁の判断に不服がある場合は最高裁まで争われる可能性がある。不明瞭な記載の票は両陣営ともにあり、出される判決が今後の選挙実務において大きな判断指標となることが見込まれる。



