富士駐屯地に長射程ミサイル配備 59年前の「基地化しない」合意に反するか
防衛省は3月31日、陸上自衛隊の富士駐屯地(静岡県小山町)と建軍駐屯地(熊本市)に、敵基地攻撃能力(反撃能力)を有する国産長射程ミサイルの配備を実施した。この配備により、従来「専守防衛」を掲げてきた日本の防衛政策は大きな転換点を迎えることとなった。相手が攻撃に着手したと判断した段階で敵国を攻撃する能力の保有は、軍拡を進める中国や北朝鮮への抑止強化を目的としているが、運用を誤れば国際法で禁じられる先制攻撃となる恐れも指摘されている。
「移動式装備」で合意違反を否定する防衛省
配備されたミサイルは、富士駐屯地向けが「25式高速滑空弾」、建軍駐屯地向けが「25式地対艦誘導弾」と命名され、いずれも射程は1000キロ以上と推定される。両駐屯地を皮切りに、今後全国への配備が進められる見通しだ。
しかし、富士駐屯地の地元では1967年、政府と地元地権者らが「東富士演習場またはその周辺をミサイル基地化しない」ことで合意していた。このため、今回の配備に対し、住民の間には「約束違反」だとする不満が噴出している。
小泉進次郎防衛相は3月19日の記者会見で、富士駐屯地に配備する高速滑空弾について「移動式の装備品」であると説明。任務の際は駐屯地から必要な場所に移動して運用するため、1967年の合意には「反しない」と主張した。しかし、この説明に対しても地元住民の納得は得られていない状況が続いている。
住民説明会未開催に批判の声
今回の配備を巡っては、富士と熊本の両駐屯地で住民説明会が一切開催されていない点も問題視されている。大阪成蹊大学の佐道明広教授(安全保障政策)は、政府の姿勢について「国民の支持や支えがない安全保障体制だということを証明しているようにしか見えない」と厳しく批判。長射程ミサイルの配備により、従来以上に攻撃対象となるリスクが高まると指摘した。
31日には、富士駐屯地前で大粒の雨が降る中、市民団体「富士にミサイルやめて!の会」の約40人を含む複数の団体が抗議行動を実施。配備撤回を求める要請書を自衛官に手渡し、「ミサイルやめろ」と声を上げた。小山町在住の渡辺希一さん(73)は「ミサイル基地化しないと地元とした約束を破っているのに、説明会も開いていない。反対の声を広げて撤回まで諦めない」と語気を強めた。
地元自治体の対応と今後の課題
近隣の住宅街に住む70歳の女性は「近所にミサイルがあるのは怖い。説明会がないなら回覧用の文書などで説明をしてほしい」と不安な表情で語った。小山町の込山正秀町長は31日、「厳しい安全保障環境の中ではやむを得ないと理解しているが、地域住民の安全・安心に配慮していただきたい」とコメント。静岡県の担当者も「県民の安心安全が第一で、県から防衛省に説明を尽くすよう申し上げている」と述べた。
防衛省は、敵基地攻撃能力の保有により抑止力の強化を図るとしているが、地元住民との信頼関係の構築が急務となっている。今後、全国への配備が進む中で、同様の住民反対運動が拡大する可能性も懸念される。安全保障政策の転換が地域社会に与える影響について、政府と住民の対話の場の設置が求められている。



