「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」を実践する起業家の軌跡
大手企業向け新規事業支援コンサルティング会社「インキュベータ」の石川明社長(60)が、自身の人生哲学とビジネス経験について語った。2010年の創業以来、同社は150社以上で3000件を超える案件を支援してきた実績を持つ。
リクルートで学んだ創業者の教え
石川氏が若い頃から心に刻んでいる言葉は、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というものだ。これは、かつて勤務していたリクルートの創業者・江副浩正氏が掲げていた社訓である。同氏は就職活動中にこの言葉に強く惹かれ、リクルート入社を決意したという。
「リクルートには数々の新規事業を成功させてきた実績があり、社員が自ら事業やサービスを発案しやすい風土がありました。まさにこの教えを体現する環境だったのです」と石川氏は振り返る。
オールアバウト創業時の試練と信念
2000年、リクルートが総合情報サイト「オールアバウト」の事業を開始すると、石川氏は自ら希望して創業メンバー7人の一人となった。黎明期のインターネットで信頼されるメディアを築きたいという強い思いから、機会を自ら創り出したのである。
しかし、事業はすぐに大きな壁に直面した。当時、代表的なネット関連企業の株価が架空契約問題の発覚で急落し、ネットバブルが崩壊。世間には「ネットメディアは変なやつのいたずら書き」という風潮が広がり、広告主の獲得に苦労した。事業資金も底をつく寸前まで追い込まれた。
それでも石川氏は、ウソのない良質な記事を書き続ける信念を決して譲らなかった。コストと時間をかけて専門家を起用し、厳格なチェック体制を構築。真偽不明の情報が溢れるネット環境においても、オールアバウトは大手企業の広告を獲得する信頼できるメディアとして26年間継続している。
「信頼を積み重ねていく姿勢が何よりも重要でした。あの時の判断は間違っていなかったと、今でも確信しています」と語る。
事業部長としての責任と成長
オールアバウトの事業部長時代には、社員数が200人近くに拡大。石川氏は自らの失敗が収益を失わせ、社員とその家族を路頭に迷わせる可能性があるという重い責任感を強く感じるようになった。
同社は2005年にジャスダック(当時)に上場し、石川氏は2010年に退社。しかし、この経験が自身を大きく成長させたと強調する。
PTA活動での新たな学び
独立後、時間に余裕ができた石川氏は、娘の小学校でPTA副会長を務めた。もともと子どもが好きだったことから、教育に関わる機会を自ら創り出したのである。
PTAはボランティア組織であり、明確な指揮命令系統がないため、会議が合理的に進まないことも多かった。「『なんか嫌だ』といった抽象的な意見を言う人もいましたが、その背景を丁寧に聞き出すことで、私が気づかなかったこだわりや意図があることに気付きました」と振り返る。
考えを理路整然と説明できる人は多くないため、言語化を手助けするスキルを身につけた。この経験は、現在の新規事業支援の仕事にも活かされているという。
石川明氏の経歴
- 1966年、大阪府生まれ
- 上智大学文学部卒業後、1988年にリクルート入社
- 在職中に早稲田大学ビジネススクール修了
- 2010年にインキュベータ(世田谷区)を創業
- 大学院大学至善館で特任教授、明治大学専門職大学院で客員教授も兼任
- 著書に「すごい壁打ち」(サンマーク出版)、「Deep Skill」(ダイヤモンド社)など



