キッコーマンと東京外大が初の産学連携、言語学で「おいしさ」の本質に迫る
食品大手のキッコーマンと東京外国語大学が2026年2月9日、協働研究プログラムの協定を締結しました。キッコーマンが人文系の大学と産学連携を行うのは初めての試みとなります。この画期的な提携は、言語学の知見を活用して「おいしさ」という抽象的な概念を科学的に解析し、グローバルな商品開発やプロモーションに役立てることを目的としています。
「おいしさと言語」の関係性に着目した研究プログラム
プログラムでは、博士課程の学生を対象に「おいしさと言語」の関係性についての研究テーマを募集します。選ばれた4名の学生は、大学とキッコーマンから研究奨励費を受け取り、2026年5月から研究を開始し、同年10月に研究成果を発表する予定です。キッコーマンの北倉芳久常務は、「言語学から見える、数値化できない『おいしさ』を解析し、プロモーションや商品の仕上げにつながるヒントを得たい」と期待を寄せています。
キッコーマンがこの研究に至った背景には、同社の「おいしさ未来研究センター」の社員たちが抱える課題がありました。会社トップから「おいしさとは何か」という雲をつかむような問いかけを受け、悩み続けた末に、写真家やシェフの話を聞き、アンケートを実施するなど、様々なアプローチを試みました。最終的に行き着いたのが、約80カ国・地域の学生約700人が学ぶ東京外国語大学の「言語学」だったのです。
グローバル展開に不可欠な言語と文化の理解
キッコーマンの商品は100以上の国や地域で提供されており、新たな市場への進出には、現地の言語や文化を深く理解することが不可欠です。言語への豊富な知見を持つ東京外大の研究者や学生の存在は、同社にとって心強いパートナーと言えるでしょう。この連携は、単なる研究協力にとどまらず、国際的なビジネス展開における文化的洞察を深める機会ともなります。
一方、東京外国語大学はこれまで産学連携プロジェクトへの関与が比較的少ない大学でした。春名展生学長は、「人文学が実践と少し距離を置いたところに学問が成立するという基本的な考え方があった」と、その理由を説明しています。しかし、外国に関心を持つ出発点が「食」であったり、国を学ぶ過程で食の魅力に引き込まれる学生や研究者が多いことから、春名学長は今回の協定を「研究教育と親和性が高い分野」として歓迎しています。
「思考調達」で結ばれた新たな産学連携の形
キッコーマンと東京外大を「思考調達」という新しいコンサルティング手法で結んだのは、COMMONZの古谷紳太郎さんです。科学史・科学哲学を専門とし、立教大学で兼任講師も務める古谷さんは、「ビジネスの評価であれ、アカデミアの評価であれ、共に面白いと言える研究がアカデミアから出てくるべきだ。そういった研究が社会で『面白い』と受け止められたら、アカデミアもビジネスも在り方が変わる」と期待を語っています。
この産学連携は、文系と理系の越境を促す現代のトレンドにも沿った取り組みです。言語学という人文科学の手法を用いて、食品産業の課題にアプローチする試みは、従来の枠組みを超えたイノベーションを生み出す可能性を秘めています。キッコーマンと東京外大の協働が、今後どのような研究成果をもたらし、社会に貢献するのか、注目が集まります。



