諸星大二郎、画業55年を記念した『短編集成』刊行開始 アナログ作画へのこだわり語る
諸星大二郎画業55年記念『短編集成』刊行 アナログ作画への思い (09.03.2026)

諸星大二郎、画業55年の軌跡を短編集成で振り返る

怪奇と幻想の世界を描き続ける漫画家、諸星大二郎氏(76)の画業55年を記念した『諸星大二郎短編集成』(小学館)の刊行が開始された。全12巻の大規模シリーズで、デビュー以降の多彩な作品群を編年体でほぼ網羅し、発表時のカラーページを再現。自作解説も付き、充実の内容となっている。

「いつのまにか55年」 多彩な作風で生き抜いた漫画家の本音

「いつのまにか55年たっていたという感じです。なんとか食いっぱぐれないでやってこられました」。ホラー、SF、民俗学などを盛り込んだ作風で知られる諸星氏は、はにかみながら語った。最近はエドガー・アラン・ポーなどの古い怪奇小説を読み返しているという。

第1回配本となる第2集『猫パニック』は、1975年から78年に発表された初期作品を収録。楽園を求めて荒野をさまよう少年の物語「失楽園」や、鎖国を断行した米国を舞台にした「マンハッタンの黒船」などが並び、人間の抱える闇や世界の破滅を表現巧みに描いている。

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諸星氏はこの時期を「楽しんで描いていた時期ですね。絵も定まってなくて、色んなことを試みて、思いついたものをやっていた」と振り返る。「いま改めて読み返すと、バラエティー豊かに、まあ色々描いていたんだなと」と笑顔で語った。

手塚治虫からの衝撃 デビューまでの道のり

幼い頃に手塚治虫の『鉄腕アトム』に出会い、ノートに落書きする日々を過ごした諸星氏。中でも「海蛇島の巻」が強く印象に残っているという。「2人の少女がアトムを争い、結果アトムが首を斬られてしまう。少年誌でこんなものを描いてもいいのかなと思うほどすごい話だった。相当な衝撃でした」と語る。

高校卒業後、数年間公務員として働き、1970年に漫画雑誌「COM」掲載の「ジュン子・恐喝」でデビュー。手塚賞に入選した「生物都市」など話題作を次々に発表し、独自の世界観を築いていった。

長編と短編の往還 映像化作品も多数

考古学者が超常現象に立ち向かう『妖怪ハンター』や、少女2人の奇妙な日常を描いた『栞と紙魚子』など、映像化された長編作品も多い。諸星氏は「長編は色々考えて話が広がっていく。短編は限られたページ数でうまくまとまると楽しい」と両者の魅力を語る。

「長編を描くと短編を描きたくなり、その逆もある。これからも短編を描くことはあるだろうから、今回の『短編集成』は全集にならないかも」と笑いながら語った。

海外文学や神話からの影響 アナログ作画へのこだわり

若い頃はアイデアに行き詰まることがあり、海外文学を読むことでイメージを膨らませていったという。異形の存在が出現する作風は、ラブクラフトの『クトゥルー神話』からの影響が大きいと明かす。「普通の怪奇小説とは違う、宇宙的な恐怖に魅力を感じました」と語った。

神話をモチーフにした『暗黒神話』など、ダイナミックな世界観の根源には古事記などへの畏敬の念がある。「神話の世界は当時の人々にとっては荒唐無稽ではなく、その時代の、古代の人たちの中に生きていたのだと思う」と述べた。

現在も「ビッグコミック」でつげ義春氏の初期SF作品「右舷の窓」のリメイクを発表するなど、意欲的な試みを続けている。アナログ作画にこだわり、ペン先から物語を生み出している姿勢は変わらない。

「ペンで直接原稿を描かないと漫画を描いている気がしないんですね。面白いものを描こうというのがいつもあるんです。アイデアが出なければどうしようもないのですが、生きているうちは描き続けられればいいなと」。愛猫をなでながら、静かに語った。

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