夢を追う者と支える者、演じて「生きた」感動の物語
Netflix映画「This is I」(松本優作監督、Netflixで独占配信中)は、松田聖子のようなアイドルを夢見るトランスジェンダーの女性と、彼女の命を救うために性別適合手術に挑んだ医師の実話に基づく感動的な作品です。タレントのはるな愛と、2007年に急逝した和田耕治医師の軌跡を、若き逸材・望月春希とベテラン俳優・斎藤工が鮮烈に演じています。二人はそれぞれの役にどんな思いを込めたのでしょうか。そのインタビューから紐解きます。
キラキラとした生命力が物語を照らす
物語は1980年代初頭から始まり、はるな愛の半生を土台としています。望月春希は中学時代から人気者になるまでのケンジ(後にアイと名乗る)を演じます。全編を通して時代のヒットソングと見応えあるダンスシーンで彩られるカラフルな作品ですが、歌やダンスは単なる飾りではありません。大阪生まれのケンジにとって、それは人生の光なのです。性別違和やいじめに悩むケンジを突き動かすのは、きらめくアイドルへの憧れでした。ニューハーフのショーパブに飛び込み、アイという名をもらってステージに立つ彼女の姿は、医師としての道を模索する和田医師(斎藤工)の人生をも照らし出します。
和田医師はアイからの相談をきっかけに、日本では長らくタブーとされてきた性別適合手術の第一人者となります。彼の患者第1号となったアイは芸能界でアイドルとして飛躍を目指しますが、二人の道のりは決して平坦ではありませんでした。
満場一致で選ばれた逸材・望月春希の情熱
波乱万丈の物語の中で、2007年生まれの望月春希が演じるアイは、キラキラとした生命力に溢れています。本作のための大規模オーディションで満場一致でアイ役に選ばれた逸材です。その演技、ダンス、そして尋常ならざる陽のエネルギーは、観る者をひきつけずにはいられません。2か月にわたるオーディションを経て、撮影前には演技とダンスのレッスン、関西弁の特訓に打ち込み、この役を「絶対にやりたかった」と語ります。
望月はこう振り返ります。「愛さんの自分のことを知ろうとする力——自分は何が好きで、何が楽しいのかを探究されているところ——に私はすごく魅力を感じました」。オーディション当時17歳の高校生だった彼女は、教室で多様な価値観に触れ、自分自身の生き方を問うていた時期でした。台本を読み、はるな愛の自分自身を愛する姿勢に触れ、強く共感したのです。
役に「生きる」ことへの徹底的なこだわり
撮影期間は約2か月間。望月自身の言葉によれば、「アイという人間をケンジの時代から一回、生きた」そうです。出演シーンの撮影は物語の時系列に沿った「順撮り」で進められ、はるな愛とは折に触れて連絡を取り合っていました。ダンスや体の動きには、どこかはるなを感じさせるものがあります。
初めてドレスを着るシーンでは、気持ちの高揚が大阪の町を舞台にしたにぎやかなダンスシーンで表現されます。曲は「赤道小町ドキッ」。望月は「『アイとしての人生で初めてこんなに楽しいっ!』と思いました。動きも気持ちにリンクしていたのかな」と語ります。感情表現については、記憶が飛ぶほど無心で役に没頭したと告白し、事前にはるな愛が実際に見た景色や通った道を体験することを大切にしたと強調します。
斎藤工はこれを補足します。「望月さんは学業もあり、曲の振りを覚えなくてはいけなかったし、主演として大変なスケジュールでした。それでも、記憶がないくらい集中されていた。感情を表すというよりは『本当を宿す』ことを、何テイクやろうと全部本気でやってくれました」。
光と影を合わせた人間ドラマ
本作の原案は、はるな愛の自伝「素晴らしき、この人生」と、和田医師の軌跡をたどるノンフィクション「ペニスカッター:性同一性障害を救った医師の物語」です。斎藤工は企画書をいただいた段階で、はるな愛の物語であると同時に、光と影を合わせた物語だと感じたと言います。
斎藤もまた、和田医師を演じることに強くひかれた一人です。撮影前の準備期間には家族と話し合い、「知られていない、知られるべき人の存在をエンターテインメントというフィルターを通して表現する」ことが俳優の役割だと感じました。和田医師の正義や、夢を追う人を応援する姿勢に共感し、この役に挑みました。
原案書籍の新版で深町公美子氏は、斎藤工が和田医師を演じると知った時、「あまりにもピッタリでしたので、すごくうれしかった」と記しています。ある場面で和田医師は「医者が患者を助けるんじゃなくて、患者さんの生きたいという気持ちが医者を生かす」と語り、他者の命を輝かせることの価値を浮かび上がらせます。
互いを支え合う撮影現場のエピソード
アイ同様、和田医師も自分らしく生きようとしますが、重圧や逆風を受けてやつれていきます。斎藤工は体重を落として役に向き合い、「食事を超えたところに精神状態はたどり着いている状態だったのでは」と推測します。食べることが大好きな自身ながら、望月春希の演技に恥じぬようエネルギーに変えたと語ります。
撮影現場では、二人の関係性を象徴するエピソードもありました。望月が役に集中しすぎて食事を忘れがちだった時、斎藤が発芽酵素玄米のおにぎりを作って渡したのです。望月は「斎藤さん、撮影を乗り切る上で、お芝居のシーンだけでなく、コンディションのところまでいいように持っていってくださいました」と感謝を口にします。
エネルギーの循環と未来への展望
逸材と呼ばれる望月春希は、今後どんな役をやりたいか尋ねられ、「キラキラしていて本当に正直な人にまた巡り会えたらいいな」と答えました。斎藤工は、望月との出会いが作品の中だけで閉じないと信じており、「これから表現者としていろいろな世界を見せてくれる。それを見守ることも、『中年』がキラキラと生きていける要素です」と語ります。和田医師がはるな愛からエネルギーをもらったように、望月の活動からもエネルギーの循環を感じると期待を寄せます。
はるな愛本人も涙した完成度
2月9日の試写会では、はるな愛本人も出席し、作品を見て涙ぐみながら「和田先生がスクリーンの中に存在するんですよね。あの時の愛に戻りました」と感想を述べました。斎藤工は完成作品をはるな愛と母親、和田医師の家族と一緒に見て、両家が涙して抱き合う姿に、この作品のゴールを感じたと語っています。
Netflix映画「This is I」は、夢を追う者とそれを支える者の絆を、感動的に描き出した作品です。望月春希と斎藤工の熱演が、観る者の心に深く響くことでしょう。



