痛快娯楽時代劇「木挽町のあだ討ち」が江戸の世界を鮮やかに描く
時代劇が低調といわれて久しい中、2026年に公開された映画「木挽町のあだ討ち」は、そんな不満を吹き飛ばす痛快な娯楽作品として話題を呼んでいる。本作は、大作感や社会性に偏りがちな現代の時代劇から一線を画し、本来の面白さを存分に発揮している。
あだ討ちから始まるミステリーの展開
映画は、文化7年(1810年)1月16日の雪降る夜、江戸・木挽町にある歌舞伎小屋「森田座」そばでのあだ討ちの場面から幕を開ける。美濃遠山藩の藩士、伊納菊之助(長尾謙杜)が父(山口馬木也)のかたきの作兵衛(北村一輝)と斬り合い、その首をとるシーンで、観客を一気に時代劇の世界へ引き込む。
場面は1年半後の森田座へと移り、遠山藩からやってきた浪人、加瀬総一郎(柄本佑)が登場する。総一郎は、菊之助のかたき討ちに疑いを持ち、真相を探るために聞き込みを始める。その相手は、菊之助がやっかいになっていた森田座の面々だ。
- 立ち回りの振付師(滝藤賢一)
- 衣装係の元女形(高橋和也)
- 小道具作りの名人(正名僕蔵)
- 森田座をまとめる座付き作家(渡辺謙)
永井紗耶子の原作小説では、それぞれの不遇の生い立ちが詳細に描かれているが、映画では人情味あふれる仕事人としてのキャラクターがくっきりと浮かび上がる。これは、源孝志監督の脚本と俳優陣の好演による成果である。
歌舞伎と映画の融合が生み出すダイナミックなクライマックス
物語はミステリー風に進み、真相が明らかになるにつれて、その展開はダイナミックですきがない。芝居が上演されている森田座の舞台と舞台裏を行き来し、冒頭のあだ討ちの場面につながるクライマックスでは、観客を心底はらはらわくわくさせる。
昨年の「国宝」では、歌舞伎の世界に映画が接近する形だったが、本作は歌舞伎を映画の側にぐいと引き寄せ、映画的な活力に満ちた作品に仕立て上げた。源監督の演出手腕も見事だが、東映京都撮影所のスタッフワークも高く評価できる。
歌舞伎小屋と江戸の町並みのセット、雪や雨、光と影、殺陣……。撮影、照明、美術の力が、かつて隆盛を誇った東映時代劇の世界を再現している。マキノ雅広監督ら時代劇の名匠たちが熟練のスタッフと共に作り上げた伝統を継承する心意気が感じられ、胸が熱くなる瞬間だ。
「木挽町のあだ討ち」は、新宿バルト9などで公開中で、上映時間は2時間。読売新聞文化部の映画担当記者が、国内外の新作映画の見どころを紹介するシリーズの一環として、本作はエンタメ・文化コーナーで取り上げられている。



