オペラやバレエの殿堂として知られ、戦後日本のクラシック音楽界を国際標準へと押し上げてきた東京・上野の東京文化会館が、7日から約3年間、改修のため休館する。再開日は未定。類似の設備を持つ他の首都圏の劇場も軒並み、同時期に改修工事で休館に突入する。代替となる劇場も限られ、行政からの仮設劇場設置などの対応もない。芸術団体や音楽祭の主催者などからは、「公演を打つ場所がない」と悲鳴が上がっている。
東京文化会館の歴史と役割
東京文化会館は1961年、東京都開都500年記念事業の一環で開場。オペラやバレエで採算がとれるのは2千席といわれる中、2303席を擁する。ウィーン国立歌劇場やミラノ・スカラ座、英国ロイヤル・バレエ団など、世界の名門の日本公演をほぼ一手に引き受けつつ、レナード・バーンスタインとニューヨーク・フィルの初来日公演や20世紀最高のバリトン歌手ディートリヒ・フィッシャーディースカウのリサイタルなど、数々の歴史的公演の現場となってきた。世界的にも「最上の質」と称賛されるレベルの高い聴衆が、こうした環境から育ってきた。
休館による影響と懸念
都が24年9月、休館を発表した際、関係者を困惑させたのは3年という工期の長さだった。代替できるのは、大規模な舞台装置やオーケストラピットを入れられる設備を持つ劇場のみ。コンサート専用のホールでは代わりがきかない。しかも、代替になり得ると期待された首都圏の施設も、経年劣化で相次いで休館する。横浜の神奈川県民ホールは昨年4月から期限未定で休館。東京・渋谷のオーチャードホールも来年1月4日からの休館が発表されている。
公演が打てなければ、組織としての運営の危機のみならず、公演を制作するノウハウの継承や、海外の劇場、団体、音楽家とのつながりも一時的に断たれることになりかねない。東京文化会館を拠点としてきた芸術団体は頭を抱える。
世界的指揮者からの警鐘
今月1日まで同館でモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を指揮していた世界的指揮者のリッカルド・ムーティ氏は、昨秋の記者会見の折、日本の首都圏で一斉に劇場が閉館する問題について「芸術家の使命に関わる問題」として、こう言及した。「たとえ一時的であっても、公演の営みが断たれることは、最も芸術に触れさせねばならない若い世代に数年、その機会を失わせることを意味するのです」
劇場はインフラか、ぜいたく品か
劇場はぜいたく品か、それとも不可欠な「街のインフラ」か。東京文化会館の休館を機に、議論が広がっている。心配する声は以前からあったが、行政の調整不在を指摘する声も上がっている。この問題は、文化芸術の継承と発展にとって重要な課題を投げかけている。



