西原理恵子、新作『ねこいぬ漫画かき』で描く毒のない世界 保護犬や猫との心温まる交流
西原理恵子、新作で描く毒のない世界 保護犬猫との交流

毒々しいギャグと独特の色使いで読者を笑わせ、清らかな叙情で涙を誘ってきた漫画家、西原理恵子が今、描いているのは、保護犬「ぽんさん」や猫たちとの心温まる交流を描く「毒のない漫画」だ。新作『ねこいぬ漫画かき』(新潮社)で西原は、動物たちが巻き起こすドタバタコメディーを描きつつ、「大好きでいてくれてありがとう」と記す。ギャグと純真さが交ざり合った新境地について、同郷の記者が聞いた。

「私はコロッケ屋のおばちゃんやき」

今作『ねこいぬ漫画かき』は、西原さんと愛犬の「ぽんさん」、そして愛猫の「文治さん」「菊美さん」「こぶちゃん」が主人公の家族の物語です。ちょうど今、文治さんが西原さんの原稿の上に乗って、内容をチェックされていますね。作中でもその姿が紹介されていました。

西原 内容をグーンと吸ってスキャンしてますね。いつも文治さんに「また文字を詰め込んだ漫画になってるぞ」と駄目出しされます。デビュー当時から言われるんですけどね、いまだに直らない癖ですね。

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記者 あ、起き上がって、ジャンプした。すごい元気だ。

西原 18歳なんで、人間で言うと高須克弥先生とだいたい同じぐらいの年齢です。このジャンプがきょうのインタビューのハイライトですね。もう飲みに行くかえ?

記者 いやいやいや(笑)、まだ始まってもいません。『ねこいぬ漫画かき』には、こうした文治さんとの日常や、ぽんさんたちとの思い出話が詰め込まれています。

西原 『毎日かあさん』の後の『りえさん手帖』も終わって、もう次のことが考えられない感じだったんです。40年近く、必死で漫画を描いてきましたから。仕事もやり過ぎたし、体調も良くないし…。

記者 ものすごい量を描かれてましたもんね。『まあじゃんほうろうき』『ぼくんち』『鳥頭紀行』…。書店に行くたびに新刊がある状況でした。全盛期に比べて、今どれぐらいの仕事量ですか?

西原 5分の1ぐらい。今、連載している5、6本でもリタイア同然という感じです。とはいえ加齢もあって、昔の3倍ぐらい時間がかかるんですけどね。

記者 もっと減らして、いったんお休みされるのかと思っていましたが。

西原 ずっと前から、新潮社の編集者、中瀬(ゆかり)さんから「何かやりませんか?」と言われていたんです。待ってくださっていることを思い出し、犬や猫のことならだいぶ貯金があるなと。(いわば)私はコロッケ屋のおばちゃんやき。店を閉めることはない。お仕事がある限りは、やっぱりいただきたいと思うので。

記者 連載誌は「小説新潮」ですね。

西原 小説を志した者が一度は書きたいと言われている黄金の雑誌ですよ(笑)。ほんとにこんなぬるいことしていいのかって思ったんですが、箸休めも必要かなと。

「毒のないかわいい漫画も描きたい」

ぽんさんをおうちに迎えるところから始まる、優しくて、純真な世界観です。

西原 私のこれまでの漫画は、今の時代で言ったらコンプライアンス違反のものばっかりやないですか。毒のないかわいい漫画も描きたいやないですか、余生に。

記者 余生って(笑)。

西原 若い頃はなんとか漫画界で爪痕を残さなきゃと思って、海外の危ないところ行かなきゃとか、変な物食べなきゃ、みたいに気持ちが焦っていました。でもそういう笑いって、どんどん行き詰まっちゃうし、滑って転べば笑ってもらえる時代でもない。

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記者 それが最高に面白かったんですけどね。

西原 時代は変わりました。最近聞いてびっくりしたのは、男の子が風俗に行くってだけで、彼女に怒られちゃうことがあるらしい。いいじゃない風俗行ったって。風俗って立派な職業だと思うし、そんなこと言ったら商売している女の子たちに怒られちゃうよ。

記者 話が脇道にそれています。

西原 あ(笑)。高須先生にも、いっつも突っかかられるんですよ。「さっきと全然違うこと言っているよ」って。(アシスタントの)愛ちゃんにも言われるし…。話を戻すと、『ねこいぬ漫画かき』では、年を取っていろんなデコレーションが取れてきた今、優しくてかわいらしいものが描けないかなと思った。自分でも「こんな引き出しがあったのか」みたいな気持ちです。

「子犬が大事そうにぞうきんがけされよったに」

犬や猫など、生き物に対する人間の愛情を、すごく感じられる作品です。ぽんさんとはどのように出会ったんですか?

西原 愛ちゃんが保護活動をしていたのがきっかけです。知れば知るほど、保護犬というのがかわいそうな状況に置かれていることが分かりました。昔の高知やったら、新聞に「あげます もらいます」のコーナーがあって、必ずみんなもらいにきてくれた。日曜市(毎週日曜日に、高知市中心部で開催されるマーケット)やったら、子犬が大事そうにぞうきんがけされよったに。

記者 盆栽とかを売る店の間でね。ヒヨコとかも売っていましたね。

西原 そうそう。それが保健所の保護犬、特に大型犬はもらわれづらくて、困っているということを知った。しかもぽんさんは外が怖くて出られないから、室内飼育が絶対条件。時期はクリスマスの頃で、保健所が閉まる寸前だった。愛ちゃんから「西原さん、良かったらもらえませんか」と言われて、「そうね、昔から大きい犬に憧れてたし」と思ってクリックしたら、その日に保健所から連絡が来ました。

記者 どんな初対面でしたか?

西原 すごいおびえていましたね。やっぱり、怖い思いをしていたんでしょうね。犬ってだいたい、嫌なことを1カ月ぐらいで忘れるらしいんですが、ゴールデンレトリバーだから賢くて、全然忘れてなかった。

記者 賢いですよね、ほんとに。

「高知の男をゴールデンレトリバーに替えたらうんと平和に」

高知の犬ってよ、すぐかむやん?

記者 そうですね、野犬もいましたし。

西原 高知にいた時に初めて飼ったのは、お兄ちゃんが山奥に住みよったおんちゃんからもらってきた、だきな(汚い、雑なといった意味)犬やった。三色ばあ色が混ざって、虫もいっぱいついて、しかもその後に、町内のすごいきれいな犬を妊娠させて…。それに対してぽんさんは、言うことも聞くし、静かに待てるし「血統書付きの犬ってこんなに違うの?」と思った。高知の男を全員ゴールデンレトリバーに替えたら、うんと平和になるで。

記者 それは間違いないですね(笑)。

西原 高知の男は、全部インドネシア人にしてもえいと思う。インドネシア人は非常に穏やかな人が多くて、お酒も飲まんし、女遊びもせんし、漁業手伝っても船の上でばくちもせん。

記者 また話それてますよ(笑)。愛猫の文治さんたちとの出会いはどうでしょうか?

西原 近くのスーパーの前で、すごい安売りしていたんです。まだ小さかった息子が泣いて「この子たち、買われなかったら殺されちゃうから買ってくれ」って言って。それが文治さんと菊美さん。こぶちゃんはその子どもで、この前に亡くなりました。他の子どもは中瀬さんとかにあげたんですが、その子たちも亡くなって…。

記者 菊美さんは元気ですが、ぽんさんも亡くなりましたね。

西原 ぽんさんとは6年ぐらいしか一緒にいられなかったですね。今度もし、保護犬をもらうとしたら、老犬にしようかなと思います。若い犬をもらっても、ドッグランなんかで遊んであげるとか、そういうことはちょっとできないと思いますし。年のいった犬猫って、自分の生きる速度とそっくりなんですよね。

「飲み会ではカツオと同じぐらい笑いの能力が大事なもんやき」

連載は続いていますが、犬のお話と、猫のお話が半々ぐらいに出てくるイメージでしょうか。

西原 そうですね。カツ丼と鰻丼を一緒に出すようなサービスのつもりです。お得でしょ?みたいな。どっちも食べたいじゃないですか。

記者 すごいサービス精神です。冒頭、ぽんさんと出会うところで始まりますが、必ずしも時系列では進んでいきませんね。あえて、ですか?

西原 そんな高度なテクニックなんかなくて、思い出した順です。ポンポンポンと、いい思い出が浮かんでくるので。

記者 西原さんはよく謙遜されて「自分にテクニックがない」とおっしゃいますが、視線誘導とかアイレベル(読者に配慮したキャラクターの目線の高さ)の確かさとか、実は非常に高度なテクニックを駆使しておられます。展開も、最後の3こまだけで笑わせることができる。

西原 それは高知の漫画家の影響ですね。横山隆一先生とか、4こま漫画家が多いじゃないですか。私もギャグ漫画出身ですし、長いとよう読まん。3人以上出てきたら分からんなるもんね。あと、高知の人は飲み会で、短いスパンで話を振って、落として笑わせる。そういう笑いの能力は主役のカツオと同じぐらい大事なもんやき。

記者 西原さんを含め、高知の絵描きの文脈って、確かにありますよね。やなせたかしさんとか、最近だと絵本『パンどろぼう』の柴田ケイコさんとか、桂浜水族館のマスコットキャラ「おとどちゃん」を生み出したデハラユキノリさんとか。独特のキャラクターセンスというか、色使いというか。

西原 二日酔いで、くらくらしながら「どうでもえいわ!」って色を選ぶとちょうどえいもん。

記者 それは西原さんだけです(笑)。私も脱線しちゃいました。『ねこいぬ漫画かき』が時系列で進んでいかないって話です。

西原 年を取ってくると、いい思い出だけ大事にしないといけません。悪い思い出しか持っていない人は、どんどん悪い方に年を取る。そうならないように一生懸命考えていると、1年前の話だったか、15年前の話だったか分からないけど、ふわふわと柔らかいものが思い出されてくるんです。そういうものを描いていきたいですね。

「そろそろ飲みに行くかえ?」

作中ではごく最近の出来事も描かれますね。

西原 文治さんと菊美さんは、こうして仕事場にも顔を出してくれますから、そのことを描きますね。猫がいると、休憩中にインターネットで変な恐ろしいサイトを検索して、身も心も真っ黒にならんで済む。猫に適度に刺激してもらうのが一番なんですよね。

記者 文治さんは、西原さんの原稿をチェックする仕事の他、いろんなところでゲロを吐く姿が、『ねこいぬ漫画かき』の中で描かれています。

西原 年中ゲロですね。エサはどんどんぜいたくになっているのに…。犬も猫も意地になって食べないから、こっちが根負けするんですよ。

記者 そうして描かれる文治さんやぽんさんたちに、ばっちりな「アフレコ」が添えられています。文治さんが西原さんの寝室のドアの前でうんこをして、それを踏みつけた西原さんに「むしゃくしゃしていた 誰でもよかった」と言ったり…。

西原 勝手にアフレコを考えるんですが、それが好きなんですよ。実際、そんな表情をしているんです。愛ちゃんといつも、アフレコを楽しんでいます。

記者 保健所から団体を通して、生まれたばかりの子猫の世話を請け負う「ミルクボランティア」もされています。

西原 かわいいんですよね~。預かって生後2カ月まで育てて、譲渡会に出します。でも、猫は見た目でもらわれていくので、特に黒猫はもらわれづらいらしい。夏に開かれる譲渡会の猫ももらわれづらいらしい。

記者 残酷な世界です。

西原 うちの母親なんか、ミルクボランティア中の子猫をちょっと見て「この子は汚いねえ」って言いましたよ。

記者 変わりませんね(笑)。

西原 私が子どもの頃、家が借金だらけだった時に子犬を拾って帰ったら「これ以上、口のついたもん家に入れてたまるか!」って怒られましたからね。この世代の人って、悪意はないけど身もふたもない。

記者 そんな厳しいお母さまが、ぽんさんに「はじめっからうちにきたらよかったにねえ」と語りかけるシーンは、とても感動しました。

西原 ありがとうございます。大好きだったぽんさんたちとの最後の別れまで、描けたらいいなと思っています。…もう、えい時間やね。そろそろ飲みに行くかえ?

記者 お酒、控えてませんでした?

西原 今ち、あんた、週に3日も飲まん日があるで。東京の人は常識がゆがんじゅうけど、3日も飲まんかったら、高知の人にはびっくりされるきね。