沼賀美奈子氏は著書『昔ばなしの魔法』(青春出版社)で、現代の子育てにおける親の不安や焦りを和らげる方法として、昔ばなしの効用を説いている。特に「花咲かじいさん」が、他人との比較に苦しむ親への処方箋になると指摘する。
「完璧な親」の呪いと子育ての重荷
現代の子育ては、英語、プログラミング、体操、音楽、受験対策など、やるべきことが無限に存在する。情報を集めるほど「これも必要かも」「あれも遅れているかも」と不安が増幅される。しかし、親を最も苦しめているのは、やることの多さではなく、「ちゃんとしなきゃ」「私がやらなきゃ」という目に見えない責任感だと沼賀氏は分析する。この責任感は愛情から生まれているため、なお厄介だ。わが子を守りたい、困った顔を見たくない、できるだけ楽に生きてほしいという思いが、親にすべてを背負い込ませる。
共同体の喪失と昔ばなしの役割
本来、子育ては親一人の仕事ではない。昔は祖父母、近所の大人、先生など、共同体で子どもを育てていた。親が日々の暮らしを回し、周りの大人たちが少し引いた場所から見守ることで、多様なものの見方が身につく環境があった。現代ではその役割の一部を、先生や保育者、図書館の司書さん、ボランティアのお話会の方々が担っている。子どもは親一人の価値観だけで育つのではなく、いろいろな大人のまなざしに触れながら「世界には自分を迎えてくれる場所がいくつもある」と知っていく。
昔ばなしは、失われかけた共同体の一部を家の中に取り戻してくれる。何百年も語り継がれてきた人間の知恵が染み込んでおり、親が全部を説明したり教え込んだりしなくても、昔ばなしが子どもの心に必要なことを少しずつ手渡してくれる。
比較に苦しむ親への処方箋「花咲かじいさん」
沼賀氏は、他人の子と比較して成果だけを見て焦る親の不安は子どもに伝わると警告する。そんな比較が苦しいときの処方箋として、「花咲かじいさん」を推奨する。この昔ばなしは、親が自分に問い直すべき言葉を与えてくれるという。



