愛媛の伝統行事「鬼の金剛」、コロナ禍と人口減で存続の危機 わら草履で災い防ぐ風習
愛媛「鬼の金剛」存続危機 コロナ禍と人口減で風習継承困難

愛媛の伝統行事「鬼の金剛」、存続の危機に直面

愛媛県久万高原町で小正月に行われる伝統行事「鬼の金剛」が、新型コロナウイルス感染症の影響と人口減少の二重苦により、存続の危機に直面している。この風習は、わらで編んだ大きな草履を谷間や集落の入り口につるし、鬼に象徴される災いの侵入を防ぐもので、愛媛県中予・南予地域の一部で継承されてきた。

100年以上続く伝統、規模縮小の現実

2026年1月16日、久万高原町二名の森田地区では、住民5人が集まって行事が行われた。稲わらで長さ約15メートルの縄を1時間かけて編み、93歳の谷口伊三夫さんが事前に制作した縦約30センチ、横約10センチのわら草履が用意された。

地区の自治会長である久保則一さん(39)は「昔は1メートルを超える大きな草履を作っていましたが、今はこのサイズです」と語り、以前の写真を見ながら苦笑いを浮かべた。谷口さんによれば、森田地区では戦中や戦後の混乱期も行事が続けられ、少なくとも100年以上の歴史があるという。

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コロナ禍が追い打ち、継承への思い

コロナ禍が落ち着いた頃、久保さんは「行事をやめよう」と提案したが、他の住民から「幼い頃から続いている。皆ができなくなるまで続けたい」との声が上がった。久保さんは「人も少なくなり、子どもの頃と比べると規模も小さくなりました」と厳しい表情を見せる。

かつては地区内の道路と川をまたぐように縄を渡して草履をつるしていたが、現在は川の上のみに通している。約3メートルの高さに縄を結び、中央に草履を結びつける作業には、少なくとも3人の人手が必要だ。久保さんは冬空に浮かぶ草履を見上げながら「それができる間はやります」と決意を語った。

行事の形は変わっても、祈りの心は不変

久万高原町渋草地区の中川邦彦さん(68)は「皆も昔からの伝承をやめたいわけではありません」と語気を強める。同地区ではコロナ禍で行事が中断し、人手不足から草履制作を中止したが、地域住民が集会所に集まって念仏を唱え、直会の食事をとる習慣は続いている。

「今年1年を幸せに過ごせるように皆で祈る気持ちは変わりません」と中川さんは語り、先人が伝えた文化を大切に思う心が変わっていないことを強調した。

教育委員会も危惧、急速に失われる日常の風景

町教育委員会学芸員の遠部慎さん(49)によると、町内には時期や内容が変化した鬼の金剛が伝わる地区が数か所あるが、現在も1月16日に催すのは二名の森田地区だけではないかという。

遠部さんは変化の要因としてコロナ禍を挙げ、「コロナ禍がなければ、鬼の金剛が各地区で続いていた可能性は高かった。日常の風景が急速に失われている」と危惧の念を表明した。

18年前の取材、中学生との再会叶わず

2008年に渋草地区の鬼の金剛を取材した際、学習の一環で参加していた町立面河中の生徒4人から「季節が変われば面河にはたくさんの行事があります。また面河に来てくださいね」との手紙を受け取っていた。今回の取材では、彼らとの再会は叶わなかったが、石鎚山からの風に揺れる大草履の記憶は、確かに彼らの心に刻まれているはずだ。

伝統行事「鬼の金剛」は、コロナ禍と人口減少という現代の課題に直面しながらも、地域住民の結束と文化継承への強い意志によって、細々ながらも命を繋いでいる。

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