「見える尾州」目指し10年、一宮の生地拠点リテイルが新たな目標
「見える尾州」目指し10年、一宮のリテイルが新目標

愛知県一宮市栄にある尾州産生地の魅力発信拠点「リテイル」が、2026年4月に設立から10年を迎えた。建物内の生地店では、地元80社から提供された約3千種類の生地や糸を販売しており、まるで産地の「ショールーム」のような空間が広がる。発起人でデザイナーの稀温(きおん)さん(59)は「ここは尾州の入り口」と語り、この10年間を振り返った。

リテイルの誕生とその背景

リテイルは、地元繊維会社の出資により2016年に設立された。名称は尾州の「尾」(英語名テイル)と「小売り」(英語名リテール)を掛け合わせたものだ。生地の小売りに加え、ワークショップなども企画し、手芸愛好家やファッション関係者、服飾を学ぶ学生など幅広い層から支持されている。一宮駅から徒歩圏内という立地の良さも、大きな強みとなっている。

稀温さんは「長く尾州産地は卸売りが中心で、小売りの店が存在しなかった」と説明する。世界的ブランドに採用されるほど高品質な生地でありながら、一般の人がその魅力に触れる機会が不足していた。そこで2014年、繊維会社の倉庫に眠る生地の即売イベントを開催したところ、予想を超える盛況ぶりとなった。この反響を受けて、常設販売の場としてリテイルを設立する決断を下した。

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歴史あるビルと「見える尾州」の理念

リテイルが入居・運営するのは、築93年のレトロビルで、一宮駅周辺でも異彩を放つ存在だ。元々は地元繊維組合の事務所ビルとして建てられ、戦災にも耐えながら歴史を見守ってきた。稀温さんは「このビルは産地の生き証人。紡がれてきた時間はお金では買えない。ここで生地を売ることに意味がある」と語る。現在、ビル内にはスーツの仕立て店や雑貨店など10店舗が入居している。

リテイルが目指すのは「見える尾州」だ。この10年間で、有名ブランドのデザイナーが視察に訪れるなど、地元企業にとって格好の宣伝の場へと成長した。また、繊維会社同士のコラボレーションを実現させたり、産地に関心を持つ若い世代と求人を出さない繊維会社との橋渡し役も担ってきた。

素材の魅力を伝える工夫

稀温さんは「リテイルは特定のメーカーの味方ではなく、良い素材の味方。どう届けるかが大切」と強調する。完成品をイメージしてもらうため、スタッフ手作りの洋服や小物を展示。生地を洗って汚れを落としたり、手に取りやすい大きさにカットするなど、販売方法にも工夫を凝らしている。来店客は、実際に見て触れることで、個性豊かな生地の魅力を肌で感じることができる。

今後の目標と10周年記念イベント

「繊維で栄えたのは昔のこと」と諦めの声が聞かれる中、稀温さんは「今も産地では多くの繊維会社が頑張っている。今足元にある宝を見つけ直してほしい」と語る。今後の目標は「続けること」であり、「子どもたちや若い世代に、尾州で作られている良い素材に触れに来てほしい」と願いを込める。リテイルは、産地の道先案内人として客を迎え続ける。

リテイルは10周年を記念し、4月29日から5月17日まで周年祭を開催する。尾州のスーツ地はもちろん、カラフルなファンシーヤーンなどがお値打ち価格で手に入る。29日には地元繊維会社の直売会のほか、かき氷やおにぎりなどの飲食販売も行われる。なお、5月11日は休館となる。

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毎年4月に実施している周年祭を、今回は18日間という長期間で実施。有名アパレルブランドで使われる高級生地などの掘り出し物に加え、通常の半額以下で購入できる商品も用意されている。1階の生地販売店「RRRマテリアルプロジェクト」では、購入額千円につき抽選券1枚を配布。5月下旬に抽選会を実施し、オリジナルTシャツなどが当たる。

担当者は「リテイルに初めて来る人も、久しぶりに来る人も気軽に足を運んでほしい。10年続けられたことへの感謝を伝えたい」と話している。