安藤忠雄氏設計の温泉施設が休館へ 800年の歴史に影
かつて隆盛を誇った宝塚温泉の流れをくむ兵庫県宝塚市の市立温泉利用施設「ナチュールスパ宝塚」について、市は6月末でいったん休館することを正式に決定した。完成から25年を迎えて老朽化が著しく進行しており、大規模な改修を経て、2年後の2028年を目途に新たな形での再開を目指す方針だ。しかし、修繕費用の見直しや新運営事業者の選定など不確定要素が多く、800年続くとされる宝塚温泉の貴重な文化継承は重大な岐路に立たされている状況である。
建築家・安藤忠雄氏の設計によるコンクリートとガラスの傑作
この施設は観光振興と市民の健康増進、さらには地域交流の促進を目的として、宝塚市が2001年に約45億円の巨費を投じて建設した。阪急宝塚駅の向かい側、武庫川に面したかつての旅館跡地(約1100平方メートル)に地上5階、地下2階建ての延べ約3100平方メートルの建物が誕生した。世界的に著名な建築家、安藤忠雄氏の設計によるもので、コンクリートとガラスを大胆に組み合わせた直線的なデザインが特徴的である。特に、露天のジェットバスと、その上方に円形にくりぬかれた屋根は訪れる者の目を強く引きつける印象的な構造となっている。
運営の変遷と利用者動向の推移
当初は市などが出資した第三セクターが運営を担当したが、経営破綻によりわずか1年半で閉鎖に追い込まれた。その後、2004年以降は市が委託した指定管理者である民間会社が運営を引き継いで今日に至っている。新型コロナウイルスの感染拡大期には利用者数が大きく落ち込んだが、最近では回復傾向が見られ、2024年度には延べ約14万6000人が来館するなど、一定の集客力を維持していた。
しかし、設備の老朽化が極めて深刻な状態に陥っており、市は大がかりな改修が不可欠と判断。現在の指定管理会社との契約期間が終了する6月末を以て、いったん休館することを決断したのである。
修繕費用の見直しと新たな活用策の模索
今後の方針として、市はまず施設の修繕を行った上で、土地や建物を民間事業者に貸し付けるか、あるいは譲渡することを検討している。新たな運営事業者を公募する計画で、2024年から2025年にかけては、施設の利活用策について民間事業者の意見を把握するための調査を実施。その結果、9つの業者から温泉付きホテルの開設や介護施設の提案など、多様なアイデアが寄せられたという。
一方、市は新年度予算案に10年間の修繕費用として2億6000万円を計上していたが、市議会予算委員会において「算出根拠が不明確である」との指摘を受け、3月18日にこの支出部分を撤回せざるを得なかった。仮に建物を解体する場合でも約4億円の費用が見込まれる難しい局面の中で、市は改めて修繕に関する支出案を示し、最適な活用策を探り続ける構えだ。
森臨太郎市長の見解と今後の展望
森臨太郎市長は3月18日の予算委員会で、「複数の企業体から、非常に優れた提案をいただいている。現状を十分に踏まえた上で、ベストの選択肢を慎重に詰めていきたい」と答弁し、前向きな姿勢を示した。しかし、800年に及ぶ宝塚温泉の歴史と文化をどのように次世代へ継承していくかという重大な課題は、依然として解決の道筋が見えていない。
安藤忠雄氏の建築的価値と、地域の温泉文化という二つの遺産をどのように保全し、再生させていくのか。宝塚市は今後、市民や関係者との対話を重ねながら、持続可能な未来像を描くことが強く求められている。



