被災木材に新たな命を吹き込むギター職人の挑戦
東日本大震災で津波の被害に遭った防風林や木造船の木材を活用し、新たにギターとしての命を吹き込む職人がいる。岐阜県可児市の「ヤイリギター」でギター製作に携わる小池健司さん(80)だ。津波にさらわれた木で作られるギターの音色は、復興を祈る人々の心を優しく包み込み、希望のメッセージを奏でている。
松島の防風林から始まった復興支援の取り組み
被災地の木を使用してギターを作り始めたのは2011年10月のことだった。津波で流された日本三景・松島の防風林の松を、作曲家の寺本建雄さんが「楽器にできないか」と小池さんに持ちかけたのがきっかけである。「復興を助けてくれた人に音楽でお礼の気持ちを伝えたい」という寺本さんの熱意にひかれて、小池さんはこの難題を引き受けた。
通常、ギターに使用する木材は樹齢200年以上で直径1メートル以上のものを選び、数年かけて乾燥させるのが一般的だ。しかし、届いた松は樹齢70年ほどで直径約30センチしかなく、津波につかった影響でカビが生えベタベタしていた。「津波に遭った木で作るからこそ意味がある。職人として諦めるわけにはいかない」と小池さんは決意した。
手ごわい松を機械を使って約2か月かけて乾燥させ、4本のギターとして生まれ変わらせた。十分に乾いていない木でできたギターは重く、こもった音がするが、力強く響く音色が特徴だ。ボディーには淡い色の松を使用し、濃い色の杉を波の形に切って張ることで、「津波に遭った」ことを連想させるデザインを施している。
音楽家たちに受け継がれる被災木材のギター
現在、製作されたギターのうち2本は同社が保管し、県内のミュージシャンが演奏する際に貸し出している。「THE GUITAR MAN music school」(岐阜県関市)代表の青木雅芳さん(54)は、愛用者の一人だ。3月14日には関市のイベントで復興を祈るライブを行い、「自分が被災地の人の力になるには音楽しかない。ずっと力を借り続けています」と10年以上にわたり使用してきたギターに感謝の意を表した。
完成から約14年が経過し、温かみのある音色も出るように変化したと実感しているという。「被災されたみなさんの思いがこもっていると思う」と青木さんは語る。小池さんはこれまで長渕剛さんやB'zら有名アーティストのギターを手がけてきたが、被災地の木を使用したギターはお気に入りの一品として大切にしている。
復元船のヒノキから生まれたリラギター
2023年には、再び寺本さんから依頼があった。石巻市(宮城県)で津波の被害に遭った、17世紀に使われていた船の復元船で使用されていたヒノキを寺本さんが入手し、「この木をギターに生まれ変わらせてくれないか」と持ちかけたのだ。
通常のギターには使わない軟らかい材質のヒノキで作られたギターは、聴衆を柔らかい音色で包み込む。19世紀頃に流行した竪琴のような形の「リラギター」に仕立て、マストや帆をイメージしたデザインを施すことで、同船の面影も残している。
微力ながらも復興支援に貢献したい思い
自身のオーダーメイドギターを求める人々の中には、被災者も含まれていた。15年前の震災は、決して他人事ではないと小池さんは感じている。「自分ができるのは、少しでも良い音楽を届けて復興を手助けすること。微々たることだが少しでも力になれれば」と語る。
被災木材に新たな命を吹き込むギター職人の取り組みは、単なる楽器製作を超え、復興への祈りと希望を音色に乗せて届ける活動へと発展している。岐阜から発信されるこの温かいメッセージは、被災地と全国をつなぐ架け橋として、これからも響き続けるだろう。



