螺鈿職人のむらまり、漆と貝が織りなす新風 京都・嵯峨野から現代に輝く
螺鈿職人のむらまり、漆と貝の新風 京都から現代に輝く

漆地に輝く貝、覚悟から生まれた「自信」がきらめく 京都・嵯峨野の工房から螺鈿に新風

薄く仕上げたアワビ貝の内側の真珠層を鏨や小刀で打ち抜き、その欠片を串先に取り、漆を塗った木地にそっとのせる。光が入る角度を見極めて配置することで、わずか数ミリの欠片も青や緑にまばゆくきらめく。螺鈿職人・のむらまりさん(41)は、漆の表面に貝をちりばめ、和柄のほか、バラの花びらやハート形、幾何学模様を鮮やかに浮かび上がらせている。

伝統技法に現代の息吹を吹き込む

螺鈿は奈良時代に中国・唐から伝わった漆工の技法で、漆を塗った木地に貝を貼り、表面の凹凸がなくなるまで漆を塗り重ねて炭で研ぎ出す。のむらさんは、「貝の輝きを決める肝は土台の漆。その美しさを左右する」と語る。直径約1センチの六角形の土台に漆を使って貝を貼る作業は、力が入りすぎないよう焦らず進めることが重要だ。

そんな螺鈿が仕事や子育てに励む女性を彩るさまを想像し、職人になってすぐの2013年、オリジナルブランド「コンフィアンス」を設立した。ブランド名はフランス語で「自信」を表し、「何一つ長続きしたことがなかった」という自らの螺鈿にかける覚悟が、13年の職人人生の軸になっている。

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家業との出会いと職人への道

嵯峨野・清涼寺門前に店舗兼工房を構える「嵯峩螺鈿・野村」は、曽祖父が1910年に創業。幼い頃は「漆で手がかぶれる」との理由で作業場に入れてもらえず、家業を意識したことはなかった。大学卒業後は商社に就職したが、転職先で伝統工芸の商品開発に携わり、人生が家業と交わり始めた。

業務では、将来への危機感から積極的にアイデアを出し、形にしようとする職人の姿を多く目の当たりにし、「変わろうと動けば、伝統工芸の可能性は広がる」と実感。契約満了で家に戻り、家業を手伝い始めると、螺鈿もその読み方も知らない人の多さに気づき、ホームページ作りやSNS発信に注力した。

すると、年間10人ほどだった体験教室の参加者は1年で50倍に増加。「そんなに頑張るなら作ってみたら」と友人に背中を押され、28歳で職人の道へ進み、父で伝統工芸士の守さん(67)から技術を一から教わった。

技術の習得と客層の変化

漆はわずかな湿度や温度の変化で、乾く時間や仕上がりが変わる。ノートに経過を詳しく記すなどして試行錯誤を重ね、徐々に感覚を身につけた。当時の主な客層は「マダム層」だったが、「同世代の若者に螺鈿を」とブランドを旗揚げし、華奢で小ぶりなピアスや洋服に合うネックレスの制作を始めた。

2014年にはバラをモチーフにしたジュエリーを、若手職人の支援を目的とした競技会に父と協業で応募。約30工程のうち、担えたのは貝を切って貼る工程だけだったが、「制作の度に技術を磨く」と技術承継を掲げ、準グランプリに選ばれた。時代を捉えた作品は若い女性の間で評判になり、客層も変化した。

子育てと新たな挑戦

2児の出産と子育てを経験し、ブランクに不安を感じる時期もあったが、作品を紹介するクラウドファンディングには目標の倍の資金が集まり、「素敵」「ずっと興味があった」との声も寄せられた。「螺鈿は現代人の心も動かす」と励まされたという。

2016年には弟・拓也さん(38)も工房入りし、切磋琢磨しながら、店のSNS担当として今では6万人超のフォロワーを抱える。投稿を通じ、人生の節目に螺鈿を買い求める若者も増え、「思い描いた夢が一つかなった」と語る。

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未来への展望

現在は「お客様の思いをどう落とし込むか」を意識した作品作りを心がけている。長年の顧客の要望を受け、昨年はブランドでのデビュー作品に改良を施した新商品を手がけた。「身近に使えるもの、次の世代に技術を伝えるものを作りたい」とのむらさんは語る。その瞳には、覚悟から生まれた自信の光が宿っていた。