創業150年を迎える江戸組紐の老舗「桐生堂」、5代目が挑む伝統継承の道
中近世の公家の衣装や武士のよろい、刀の下げ緒など、日本の歴史と共に歩んできた「組紐」。東京都の伝統工芸品である「江戸組紐」を生み出す老舗、桐生堂(台東区)が、今年で創業150年という節目を迎えた。5代目を継ぐ羽田眞治会長(79)は、組紐の長い歴史を次世代へと伝えたいという強い思いを胸に、新たな挑戦を続けている。
無数の糸が織りなす色彩の世界
桐生堂の作業場には、染め上げられた絹糸が所狭しと並んでいる。羽田会長は「どんな注文にも応えられるように」と語り、同じ「青」と一口に言っても、空のように澄んだ色から夜の海のような深い緑がかった色まで、数十色ものバリエーションを揃えている。これら多彩な糸は、組紐職人の繊細な技によって、一つひとつ丁寧に組み上げられていく。
羽田会長は「重打台」と呼ばれる伝統的な道具に向き合い、9本の糸を指先でなでながら、確かな手つきで組紐を編み上げる。その手元では、みるみるうちに組紐が長さを増していく。わずか10センチを組むのにも約5分を要するという、職人ならではの熟練の技が光る瞬間だ。
150年の歴史と三つの転機
桐生堂の創業は1876年にさかのぼる。先祖は群馬県桐生市で組紐作りに携わっていたが、同年の廃刀令によって需要が減少。新たな活路を求めて江戸へと移り、故郷にちなんで「桐生堂」の屋号を掲げた。戦後も一時は需要が低迷したが、百貨店の物産展への参加をきっかけに人気が広がり、小売り事業へとシフト。現在ではネット販売も手がけ、世界的な「居合抜き」ブームの追い風も受けて、国内外から注文が相次いでいる。
羽田会長は、桐生堂の歴史における大きな転機を三つ挙げる。先祖の上京、物産展への参加、そして卸事業から小売りへの完全なシフトだ。そして今、同社は新たな変化の只中にある。後世に組紐の文化を残す方法を模索する中で、体験工房のオープンを目指し、作業場の改装を進めている。
組紐の特性と現代への息吹
組紐の最大の特徴は、その優れた伸縮性にある。糸を交差させて斜めに組み上げる技法によって生まれるこの特性は、法隆寺の装飾仏具「組紐幡」をはじめ、刀や武具、文箱、帯など、多様な場面で活用されてきた。現代では靴ひもとしても親しまれ、日本の気候や風土に合った実用性の高さが、長きにわたって愛され続ける理由となっている。
機械化が進む現代においても、「手でなければできない組紐はたくさんある」と羽田会長は語る。締め具合の調整など、職人の感覚と技術が不可欠な部分が多く、伝統の技の重要性は変わらない。
歴史を紡ぎ、未来へつなぐ
「時代がどんどん変化していくから、いろんなことをやってみただけ」と笑う羽田会長。組紐には長い歴史があり、桐生堂が手がけるのはそのほんの一部に過ぎないが、「一人の職人が一生かかっても覚えきれないほどの種類がある。それが消えてしまうのは惜しい」と、伝統の継承への思いを強く語る。
用途に応じて伸び縮みする組紐のように、しなやかさを持って時代の変遷を乗り越え、伝統と文化を確かに歴史に組み込んでいく。創業150年を迎えた桐生堂と羽田会長の挑戦は、これからも続いていく。



