将校の忠誠と憎悪:統一国家を目指す密偵の任務と街の迷路
将校の忠誠と憎悪:統一国家を目指す密偵の任務

将校の忠誠と憎悪:統一国家を目指す密偵の任務と街の迷路

「総統の犬」という渾名を、将校は誇りに思っていた。しかし、それを嘲笑しながら聞こえるように囁いた他の隊の者を、彼は忘れることがなかった。数年前、その隊が粛清の対象になった際、彼はまっさきにその者を捕らえ、銃殺の際も志願し、本懐を遂げた。総統への忠誠を嘲笑った者を掃除するのが自分の責務だと思ったからである。

円環状の街での掃除任務

この円環状の街を掃除するのも彼の任務だった。同じ民族の血が流れるのは出来る限り避けたい。しかしながら、あの街は人種が入り混じり過ぎている。特に皇帝家に入り込み腐敗させたJは始末に負えない。帝国が崩壊した後も奴らはまだ富裕層に属し、害虫の如くのさばっている。あの街の自由主義的な気風もいけない。芸術家は社会を退廃に導く。同じ民族である我々が正し、統一国家を目指さねばならない。

そう言われ、数年前から首都である街に赴き、来たるべき統一の日に備えて、危険分子を見つけだし密かに注視した。密偵を統一に反対する党や組織に忍び込ませ、裕福なJの財産を調べあげ、Jと関わりのある人々も洗いだした。世論に影響力を持つ人物の動向を探り、必要とあれば牽制した。

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文化人への敵視と自殺の相次ぎ

カフェハウスにたむろする鼻持ちならない文化人にはJが多かった。朝から晩までコーヒーと酒と煙草と議論で過ごし、労働を怠け、規範を疑う。彼らの存在そのものが反社会的に思えた。統一が成功した暁には片っ端から捕まえて収容所へ送ってやろうと思っていた矢先、目をつけていた文士が自宅の窓から飛び降りて死んだ。

国外逃亡を謀ったJや政府関係者を追っている間に、Jの一家心中や自殺は相次いだ。労働力にもならない怠惰さに、将校は心底うんざりした。彼らは統一の障害であり、社会の腐敗の象徴だと確信していた。

石造りの迷路のような街並み

街の中心にある大聖堂の鐘が鳴る。石畳の街に硬質な音が降りそそぎ、将校たちのブーツの音をひととき覆い隠してしまう。古い街並みは美しいが、建物が隙間なく建てられているせいで、建物の反対側の通りに行こうと思っても大きな区画をまわり込まなくてはいけないことが多い。

反対側へと通じる路地がないこともないのだが、建物の地上階部分に開けられた隧道のような代物で、通り抜けできるかどうかは覗いてみないとわからない。街に長く住む者なら把握しているのだろうが、将校たちにとっては石造りの迷路のようだった。毎日、無駄に歩かされている気分になる。この複雑な構造が、彼の任務をさらに困難にしていた。

将校は、この街のすべてを掌握し、統一国家の実現に向けて一掃する日を待ち望んでいた。しかし、その過程で直面する自殺や逃亡、そして迷路のような街並みは、彼の焦りと苛立ちを募らせるだけだった。忠誠と憎悪が交錯する中、任務は続いていく。

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