田中一村の旅色紙絵、千葉市美術館が新たな視点で紹介 南国への転機示す21点
田中一村の旅色紙絵、千葉市美術館が新たな視点で紹介

田中一村の旅色紙絵、千葉市美術館が新たな視点で紹介

昭和30年(1955年)、日本画家・田中一村は能登での薬草図天井画制作の合間に、九州から四国、紀州を巡る旅に出た。このスケッチ旅行で描かれた色紙絵が、現在21点確認されており、千葉市美術館がその意義を新たに紹介している。

旅先の景を描いた貴重な色紙絵

一村の旅のスケッチ自体は現存していないが、旅先の風景を描いた色紙絵が千葉をはじめ各地の人々に伝えられ、近年新たに発見された作品も含めて21点が確認されている。これらの作品は、小さな色紙の画面ながらも充実した描写で、魅力的な一群として長く紹介されてきた。

特に注目されるのは、南国への関心の萌芽が感じられる点だ。絵には新しい題材を扱う高揚感が満ちており、後に一村が奄美大島に移住する転機を予感させる要素が散りばめられている。

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写真を参考にした丁寧な制作過程

色紙絵は、おそらく千葉に帰ってから、旅先で携行したカメラで撮影した写真を参考にしながら、じっくりと描かれたものと考えられている。完成した作品は、旅先で世話になった人々へ感謝の気持ちを込めて送られた。

色紙を包むたとう紙には、題名に加えて景勝地や景物の説明、その土地で感じた感慨が書き添えられている例もある。例えば《青島の朝》には「海ハ碧玉 空ハ緑玉 枇榔樹ノ葉ハソヨグ 南国ノ夢アリ」という詩的なフレーズが記されており、一村の練り上げられた表現力が窺える。

後の奄美作品に直結する構成

《青島の朝》では、画面手前を覆うように葉を濃い緑や黒の顔料で何層にも描き、その奥の海面と空を筆を重ねて細かく表現している。この構図は、クローズアップした大きなモチーフを手前に配置し、奥に遠景を配する手法で、後の奄美時代の作品に直結する特徴となっている。

このような構図は、写真や浮世絵などにも見られるものだが、一村の作品では手前の風物と遠景の名所が組み合わさることで、象徴性の高い特別な画面を生み出している。

旅土産としての性格を再確認

近年、旅の色紙群のたとう紙の現物が再確認され、10点がまとめて公開される機会があった。それらを並べて眺めたとき、これらの作品が単なるスケッチではなく、旅土産としての御礼の連作であることが強く実感されたという。

一村は、旅先の風物や景色の特徴、印象深かった風土の中から何を選び取って伝えるべきかを熟慮したに違いない。支援してくれた人々への感謝と、旅の成果を見せたいという心情が、絵に新たな変化をもたらしたのである。

新しい絵画の誕生とその意義

これまで描いてこなかった植物と景観を組み合わせたこれらの作品は、後の一村を特色づける新しい絵画の誕生を告げるものだ。人との関係を背景に生まれたこの連作は、その後の展開や飛躍を準備した意味深い作品群として、今日まで遺されてきた。

千葉市美術館副館長の松尾知子氏は、これらの色紙絵が一村の画業における重要な転換点を示すものであると指摘。旅の感謝を形にした土産絵としての性格を再評価することで、一村の創作の源泉に新たな光を当てている。

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