文化・渋谷区。砂漠に忽然と現れたアートの集合体。それが「ジャッド│マーファ展」だ。美術評論家の高山羽根子氏が、その魅力を語る。
ひとりの“表現者”と、その人が立つ“場所”には、繊細で複雑な関係性がある。人間の意識は、その人間の立つ位置(座標だけでなく、文化的、社会的な立ち位置も含む)に強く左右されるからだ。この展覧会は、まさにその関係性を浮き彫りにする。
ドナルド・ジャッドとは何者か
ドナルド・ジャッドは、20世紀のアメリカのアート、建築、デザインを語る上で欠かせない重要な作家であり、美術評論家としても活躍した。彼は第二次世界大戦後のアメリカで軍に入隊し、韓国に駐留した経験を持つ。帰国後は哲学、美術史、そして絵画を学んだ。
日本では「戦後」とシンプルに表記されることの多いこの長い時期、アジア全体ではいくつかの戦争を含む大きな動きがあった。その背景として「東西」や「冷戦」というキーワードは、極めて大きな要素のひとつだろう。その時期のデザインや建築はミッドセンチュリーとも呼ばれ、その後のミニマリズム等から現在に至るまで、世界中で強い影響を与え続けている。アメリカに生まれ育った表現者にとって、その時期の表現活動には強い哲学的意味が含まれていると感じられる。
展覧会の構成と見どころ
展示のタイトルにある「ジャッド」は“表現者”であり、「マーファ」は“場所”だ。米テキサス州の砂漠にあるその地域には、現在、ジャッドの美術館やスタジオ、プラダ・マーファなどのアートスペースがつくられている。それらを観に、アメリカ国内だけでなく世界中から人が訪れる。何もないとされていた場所に、アースワークのようにして現れたアートの集合体への注目は、表現者と場所のかかわりに着目して開催される日本の地域アートフェア(町おこしなどの文脈で語られるものも含めた作品展示全般)にも通じる。
展示は、アイデアスケッチや写真、ドローイングなどの記録をはじめ、そのエリアに置かれているオブジェクトを軸に展開されている。現地の再現というよりは補助線のような展示のあり方で、テキストなども含め、作家が自ら選んだ砂漠のその場所に恒久展示として作品を展開していった思索の変遷を追うことができる。
ワタリウム美術館の特徴
1990年代に東京都渋谷区に生まれたワタリウム美術館は、展示期間を他のギャラリーと比較しても長めにとっていることが多い。この展示方法は、鑑賞者が繰り返し見ることを可能にする。今回の作家の展示、つまり恒久展示を意識して創作を定義する作家と彼が選んだ場所についての記録展示は、渋谷という絶えず変容を続ける街に生まれ、「戦後」の表現者の場であり続けているこの場所と、とてもよく合っているとも思えた。
展覧会は、東京都渋谷区神宮前3の7の6、ワタリウム美術館で7月12日まで開催中。月曜休館。問い合わせは電話03・3402・3001まで。



