阪神大震災直後の選抜高校野球、選手宣誓が被災地に勇気と感謝を届けた感動の物語
阪神大震災直後の選抜高校野球、選手宣誓が被災地に勇気

震災直後の甲子園で響いた感謝と誓いの言葉

春風に暖かさが混じる季節になると、高野和樹さん(58)の胸は自然と高鳴る。毎年、選抜高校野球大会が近づくたびに、あの1995年の春を思い出すからだ。阪神大震災からわずか2か月後、甲子園球場(西宮市)で開催された第67回選抜高校野球大会で、初出場を果たした埼玉県立鷲宮高校の野球部顧問として、彼は歴史的な瞬間に立ち会った。

被災地での大会開催に揺れる思い

当時、震災の爪痕が生々しく残る神戸や阪神地域では、ブルーシートが掛かった家々が目立ち、復興はまだ道半ばだった。「被災地で野球か」と反対の声も多く、高野さん自身も「本当にやっていいのか」と胸中は複雑だった。そんな中、自校の主将が開会式の選手宣誓を務めることが決まり、国語教師と主将との3人で文言を考え始めた。

被災地への配慮を忘れず、「せめて少しだけでも思いを素直に伝えさせてもらおう」という気持ちから、夢の舞台に立つ喜びを表現した。宣誓文には、「今 あこがれの甲子園に立っています」という出だしに続き、「この大会が 地元の皆さんのあたたかい理解と 多くの方々の努力によって開催されることに 感謝の気持でいっぱいです」と、遺族や被災者、大会関係者への実感を込めたメッセージが綴られた。

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雨の開会式で響いた復興への誓い

3月25日、雨が降る中での開会式。主将は何百回も練習を重ねた宣誓を堂々と読み上げた。「私たち選手一同は 全力でプレーし 夢と希望と感動を与え 復興の勇気づけとなるような試合をすることを誓います」。この言葉に、会場からは温かい拍手が送られた。高野さんは、「とんでもない重圧だっただろう」と振り返り、今でも胸が熱くなるという。

翌日の初戦、鷲宮高校は1点差で敗れたものの、最終回に同点の好機をつくるなど粘り強いプレーを見せた。責任教師として、高野さんは誇らしい気持ちでいっぱいだった。しかし、学校に戻って驚いたのは、多くの手紙や電話が寄せられたことだ。「素晴らしい宣誓に勇気をもらった」「ひたむきなプレーに感動した」といった声が相次ぎ、中には被災者からの感謝の言葉も含まれていたという。

31年経た今も続く教訓と新たな春

高野さんは現在、母校の埼玉県立上尾高校で監督を務めている。昨秋には県大会で4強入りを果たし、自主性を重んじる練習姿勢が評価され、今春の選抜大会に向けて「21世紀枠」の候補校にもなった。吉報は届かなかったが、教え子たちには「野球ができる感謝を忘れてはだめだよ」と説き続けてきた。

あの選抜から31年。高野さんは時折、甲子園から持ち帰った一握りの土を見つめながら、あの宣誓を諳んじる。全力疾走を貫くことで、誰かの勇気や希望になれるかもしれない。そう思いを新たにする春が、今年も訪れている。

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