青森の競走馬牧場が火災で全焼、絶望から再起への道のり
昨年5月4日夜、青森県階上町角柄折にある競走馬牧場「ワールドファーム」で、事務所と2棟の厩舎計約330平方メートルが全焼する火災が発生しました。従業員や馬に人的・物的被害はなかったものの、場長の村上幹夫さん(48)は八戸市の自宅から駆けつけた際、「着いた時には火柱が上がっていて、どうすることもできなかった」と当時を振り返ります。何もかも失った瞬間、村上さんは震える声で家族に連絡を取ったといいます。
予想外の災難と資金難の壁
火元は不明で、原因は漏電とみられています。この予期せぬ災難により、牧場は雨風をしのげる場所を失い、10頭の馬は常に屋外で過ごさざるを得ない状況に追い込まれました。さらに、業者から再建費用として約4000万円が必要と告げられ、資金を用意するために馬を安売りすることも検討せざるを得ませんでした。
家族で話し合った結果、村上さんらはクラウドファンディング(CF)で支援を募ることを決断します。返礼品として、馬のたてがみを使用したストラップや、餌やりやブラッシングが体験できる見学会への参加権を用意し、5月下旬に募集を開始しました。
出身馬の活躍が転機に
当初は県内のファンを中心に寄付が集まったものの、目標額2000万円の半分に達したところで伸び悩みます。「やっぱり、こんな小さな牧場にお金を出してくれる人は少ないのかな」と村上さんは当時の不安を語ります。しかし、ここで牧場で生まれ育った競走馬が救いの手を差し伸べました。
2021年にワールドファームで生まれ、1歳までを過ごしたハヤテノフクノスケ(牡5歳)が、6月29日の函館記念(G3)で2着と好走。これが「青森出身で強い馬がいる」と全国の競馬ファンの間で話題となり、寄付が勢いを取り戻します。7月29日までに目標額の2000万円が達成され、村上さんは「こんな形で、自分の育てた馬に助けられるとは」と感慨深げに話します。
仮厩舎完成と新たな決意
9月には焼け落ちた厩舎のがれきが完全に撤去され、11月には敷地内に仮厩舎が建設されました。村上さんは、多くのファンの支援に感謝し、「出資してくれた人たちのためにも、速い馬を育てたい」と決意を新たにしています。
特に、100万円を寄付してくれた人には返礼品として命名権を贈り、メンコイコイ(牝2歳)と名付けられた馬が誕生しました。この名前は、北海道や東北地方で「かわいい」を意味する「めんこい」と、花札の競技「こいこい」に由来しています。メンコイコイは早ければ今年夏にも北海道営ホッカイドウ競馬(北海道日高町)でデビューする予定で、村上さんは「ワールドファーム復活のシンボル。大いに活躍してもらいたい」と期待を寄せています。
火災という試練を乗り越え、クラウドファンディングと出身馬の活躍によって再起を果たしたワールドファーム。その歩みは、地域のファンや全国の競馬愛好家の温かい支援に支えられています。



