どん底から頂点へ、延岡でつかんだ再起の日本一
旭化成柔道部コーチ・王子谷剛志(おうじたに・たけし)さん(33)は、柔道界において輝かしい実績を誇る選手だ。体重無差別で日本一を決める全日本選手権では、歴代3位となる計4度の優勝を達成している。特に2023年の優勝は、彼の柔道家人生において特別な意味を持つものとなった。
東京五輪落選から延岡への移住
王子谷さんは、東海大学4年時の2014年に全日本選手権を初制覇。卒業後は旭化成に所属し、国内外の舞台で活躍を続けてきた。しかし、2021年当時は思うような成績が出ず、東京オリンピックへの出場権を逃すなど、まさにどん底の状況にあった。
そのような中、練習拠点を東京から宮崎県延岡市に移す決断を下した。旭化成の創業地である延岡市にある同社柔道部の部員数は10人ほど。選手層が厚く、様々なタイプの選手と日々稽古ができる東京と比べると、決して恵まれた環境とは言えなかった。
温かい声が闘志に火をつけた
しかし、延岡での生活は王子谷さんに新たな気づきをもたらした。市民や職場の同僚たちから「応援しているよ」「必ず優勝して」といった温かい声が次々と寄せられたのである。東京ではあまり感じることのなかったこうした直接的なエールに、王子谷さんは「心強く思った」と振り返る。
「心機一転、もう一度延岡の地で輝いてみせる」――そう誓った王子谷さんは、練習に一層打ち込むようになった。周囲の期待が、失われかけていた闘志に再び火をつけ、前に前へと進む原動力となったのである。
6年ぶりの日本一、感動の決勝戦
2023年の全日本選手権決勝では、神奈川・東海大相模高校、東海大学、旭化成と常に背中を追ってきた羽賀龍之介選手(現旭化成柔道部コーチ)と対戦した。試合は時間無制限の延長戦に突入。王子谷さんが立て続けに技を仕掛けると、相手に三つ目の指導が出て反則勝ち。これにより、6年ぶりとなる日本一の座に返り咲いた。
「選手権でまた優勝したいという夢があった。延岡にいるメンバーや家族の支え、そういった力がうまくかみ合った」と王子谷さんは一戦を振り返る。周囲の存在が「私の闘志に再び火をつけ、前に前にと進めてくれた」と感謝の言葉を口にした。
指導者として、後輩を世界へ
現役引退後、王子谷さんは旭化成柔道部のコーチとして新たな道を歩み始めている。自身の経験を糧に、後輩たちの指導に当たっているのだ。
「延岡でもできると信じてほしい」――これは王子谷さんが若手選手たちに送るメッセージだ。大都市ではない環境でも、強い意志と周囲の支えがあれば、頂点を目指すことは可能である。自身がそれを体現して見せたからこそ、説得力のある言葉となっている。
王子谷剛志さんは、延岡という「再起の地」でつかんだ栄光を礎に、次世代の柔道家を世界の舞台へと導く使命に今、全力を注いでいる。その姿は、逆境を乗り越え、新たな目標に向かって歩み続けるすべてのアスリートにとって、大きな希望の光となるだろう。



