激動の時代に求められる歴史の視座
数十年、あるいは数百年に一度の規模と言われる激動の時代が今、訪れている。長く続いたグローバル化の反動なのか、人々は混乱し、戦乱に苦しみ、強者が弱者を虐げる状況が広がる。日々のニュースだけでは、情報の風に吹き回され、弄ばれるばかりで、混乱は深まる一方だ。
キリスト教史が示す世界の補助線
このような時代こそ、時代を俯瞰できる歴史書を紐解くことが重要である。特にキリスト教史は有益だ。わが国の同盟国アメリカを筆頭に、一部の西洋諸国では、キリスト教を軸とする文明観の再編が進みつつある。その補助線を引くことで、世界の動きが立体的に見えてくるからだ。
キューバ出身のキリスト教史家、フスト・ゴンサレスによる『キリスト教史』(The Story of Christianity)は、二千年に及ぶ歴史を平明に、しかも物語として描き出す名著である。特に宗教改革から現代までを扱った下巻では、米国を含む西洋世界の精神的な水脈が丁寧にたどられている。
包括的な視点と現代への示唆
本書はカトリックやプロテスタントのみならず、東方正教会にも目配りが行き届き、さらにアジア・アフリカ・ラテンアメリカへの布教と植民地主義の関係にも光を当てる。その歴史を知ることは、今日なお残る世界の傷を理解する手がかりにもなるだろう。
大学での教育にも堪えうる重厚な著作ではあるが、ぜひ文庫として広く読まれてほしい。仏教系出版社の法蔵館が文庫レーベルを始めたように、キリスト教系出版社も重要な歴史書や思想書を手に取りやすい形で刊行することを期待したい。混乱の世に、社会を静かに引き締める塩気となるはずだ。
寄稿者は加藤喜之氏(1979年、愛知県生まれ、立教大学教授、思想史・宗教学)。著書に『福音派――終末論に引き裂かれるアメリカ社会』がある。



