スポーツで地域と子どもたちの未来を拓く 千葉遼さんの挑戦
少子化の進行に伴い、子どもたちがスポーツに触れる機会が減少する現代社会において、一つの希望の光が岩手県一関市から灯った。昨年10月、元ソフトボール選手の千葉遜さん(28)が自身の名を冠した一般社団法人「HARUKA」を設立し、スポーツを通じた地域活性化と次世代育成に乗り出した。
ソフトボール選手として培った経験を地域へ還元
一関市三関出身の千葉さんは、幼少期から活発な性格で体を動かすことが大好きだった。小学3年生の時に父親の影響で地元の少年野球チーム「一関ベアーズ」に入団。唯一の女子メンバーながら、優れた制球力を評価され投手を務めた。中学校では男子との体格差を考慮しソフトボールに転向し、その才能を開花させた。
強豪校である一関一高に進学後は、強肩の捕手として活躍。2015年の全国高校選抜大会では16強入りに大きく貢献するなど、輝かしい実績を残した。大学では兵庫県の園田学園女子大学(現・園田学園大学)のソフトボール部に所属し、全日本大学選手権優勝など数々の栄誉に浴した。
「誰一人取り残さない社会」を目指す基本理念
HARUKAが掲げる基本理念の一つが「誰一人取り残さない社会を目指す」という考え方だ。この理念の礎となったのは、千葉さん自身の大学時代の体験である。
「練習では和気あいあいとした雰囲気で、先輩後輩の区別なくプレーについて率直に意見を交わしていました。グラウンドを離れればチームメートとは家族ぐるみの付き合いで、4年間で退部者は一人もいませんでした」と千葉さんは振り返る。
自身は控えメンバーだった時期もあったが、同じ境遇の仲間と互いに励まし合い、前向きに練習に取り組むことができたという。この経験から「スポーツ選手の力を伸ばすのは、成長し続けたいという前向きな心である」という確信を得たことが、HARUKA設立の原点となった。
スポーツ心理学を学び指導者としての礎を築く
法人設立を視野に入れ、千葉さんはさらなる学びを求めて愛知県の日本福祉大学大学院に進学。スポーツ心理学を専門に学び、指導者の体罰問題にも真摯に向き合った。
修士論文では「指導者の言動が学生アスリートのパフォーマンスに与える影響」をテーマに選定。全国の大学を対象にアンケート調査を実施し、指導者としての在り方について深く考察した。「指導者として、子どもたちの前に立つイメージが明確になりました」と語る千葉さんにとって、この研究結果は貴重な財産となった。
地域の課題解決につながるスポーツ活動を展開
昨年12月には、一関市内の小学校でソフトボール教室を開催。新米コーチとして子どもたちに「ナイスボール!」と明るく声をかけ、ハイタッチを交わすなど、和やかな雰囲気の中で指導を行った。
少子化や指導者の高齢化の影響により、一関市でもスポーツチームの廃部や部活動の地域移行が進んでいる現状を踏まえ、千葉さんは今後放課後に子どもたちや指導者が集う「スポーツ学童」の構想も抱いている。
「自分のやりたいことが地域の課題解決につながれば嬉しい」と語る千葉さん。大学院修了後には英語習得を目指してオーストラリアへ渡航し、農家での住み込み労働や大自然との触れ合いを通じて視野を広げた経験も、現在の活動に活かされている。
平日は新幹線の線路メンテナンスを担う建設会社で採用業務に従事しながら、週末を中心にHARUKAの活動に取り組む。現役時代の勝負飯として親しんだ「寮でのたこ焼きパーティー」のように、人と人との温かい交流を大切にする姿勢は変わらない。
28歳の若きリーダーが始めたこの壮大な挑戦は、スポーツを通じて子どもたちの可能性を広げるとともに、地域社会に新たな活力をもたらすことが期待されている。



