従来の大学像覆す「ニュータイプ大学」ZEN大とCoIU、少子化時代の新たな挑戦
従来の大学像覆す「ニュータイプ大学」ZEN大とCoIUの挑戦

皆さんが抱く大学のイメージとはどのようなものでしょうか。広大なキャンパス、階段状の講義室、明るいラウンジ…。しかし、こうした従来の大学像にとらわれない新しいタイプの大学が近年、相次いで登場しています。昨年開学した大規模通信制のZEN大(本部・神奈川県逗子市)と、今春新設のコー・イノベーション大(CoIU、岐阜県飛騨市)です。少子化の影響で毎年のように学生募集を停止する大学がある中、両大学がどのような取り組みで学生を引きつけているのかを取材しました。

ZEN大:手厚いサポートで学生獲得

ZEN大を運営するのは、IT大手のドワンゴと日本財団が設立した学校法人「日本財団ドワンゴ学園」です。学部は「知能情報社会学部」のみですが、六つの分野から文理を問わず科目を横断的に履修できます。通学負担がない通信制大学は一般的に社会人の割合が高いですが、N高、S高などの系属校を持つZEN大では高校生からの進学が半数以上を占めるのが特徴です。

2年の塚田光俊さん(22)=愛知県みよし市=はS高の卒業生。子どもの頃から打ち込んできた囲碁と学業を両立させるため、高校卒業後は別の通信制大学に進学しましたが、より充実したサポートを求めてZEN大に入り直しました。

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学生を支援する特徴的な取り組みの一つがクラス制です。150人ほどで一つのクラスを編成し、それぞれに担任のような役割を担う「クラスコーチ」がつきます。クラスコーチは年4回の個別面談で履修や生活の悩みなどの相談に乗り、学習状況も確認します。塚田さんは「他の通信制大学も調べたが、サポートがここまで手厚い大学はなかった」と振り返ります。

講義は、大学が事前に撮影した動画を視聴する形で進めます。塚田さんは主にスマートフォンで受講し、自宅やカフェなど場所を選ばず好きなタイミングで学習します。「分からない部分は戻してもう一度見られるので、理解度は対面の講義より高いと感じる」と話します。授業の評価は学期ごとのテストやリポート課題などで決まります。

対人関係もオンライン中心

学生生活に欠かせない対人関係もオンラインが中心です。サークル活動はビジネスチャットアプリ「Slack」で運営されており、立ち上げも容易です。塚田さんもボーカロイドや楽器のサークルなど複数を主宰しています。「サークル活動で旅行に行ったり、学友と夜遅くまでオンライン通話で話したりして、充実した学生生活を送れている」と笑顔を見せます。

通信制の場合、空間の制約を受けずに対人関係を築ける一方、偶然の出会いは生まれにくいという課題もあります。クラスコーチの谷田部夢麻さんは「たまたま席が隣になって仲良くなるという状況はないので、自分から一歩踏み出す力が求められる」と指摘します。学生同士が直接つながることができる場を求める声はあるものの、学生の半分近くは関東圏在住。対面で開く学内イベントも東京が中心で、地方の学生が参加しにくいのが現状です。谷田部さんは「2年目からは、地方の学生がリアルの場で集まれるイベントを開催していきたい」と話しました。

なぜ通信制大学が選ばれるのか

若山正人学長は、デジタル技術の進展に加え、価値観の変化を挙げます。コロナ禍を経て、社会全体がオンラインでの学習や仕事に慣れたことが追い風になっていると説明。「場所や時間に縛られない学びを提供し、大学進学を諦めていた人にも学びの門戸を開くことが設立時の理念。多様な学びの形を整えることで、若い世代に新たなベネフィットを生み出していきたい」と今後の展望を語りました。

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CoIU:プロジェクト型学習で差別化

アニメ映画「君の名は。」の聖地として注目された岐阜・飛騨古川に今春誕生したのがコー・イノベーション大(CoIU)です。飛騨地域初となる私立の四年制大学で、初年度は約50人の若者が門戸をたたきました。

4月上旬の入学式では、構想段階から深く関わる同大特別顧問の宮田裕章慶応大教授が1期生を前に力を込めて語りました。「新しい時代に必要な学びは、まだつくられていない。だから、私たちが共につくる」

念頭にあるのは、現代社会における急速なデジタル化、特に会話の文脈を理解して即座に文章などを生み出す対話型生成人工知能(AI)の登場です。高木朗義学長は「知識を習得する価値が変わった」と強調します。現在も大半の大学では座学によるインプット型教育が続いているといい、「行動・実践するというアウトプットを重視すべきだ」と設立に踏み切った理由を説明します。

「共創学部」のみの単科大学としてスタート。実社会の課題と向き合う「プロジェクト型学習」に徹底して取り組むことで、他大学との差別化を図ります。

1年の長期インターンで課題解決力を磨く

その主軸が、2年次に行う「ボンディングシップ」と呼ぶ、1年間にわたる長期インターンシップです。学生たちは北海道や東京など同大のサテライトキャンパスが置かれている全国15地域に移住し、自治体や企業などの一員として課題解決に挑戦します。そのために1年次から一般教養のほか、経済学やデータ分析、地域調査法、組織行動など必要となる理論を飛騨で学んでいます。

教育内容にひかれて全国から学生が集まりました。岐阜県多治見市出身の北林拓実さん(18)もその一人。友人関係で苦しみ、進路に悩んでいた時、母親に勧められてCoIUのイベントに参加。煎餅店と地域課題をつなげて商品開発するという課題に取り組み、「わくわくした。自分には『これだ』と思った」と振り返ります。

ユニークさは大学の随所にあります。入試に関しても、筆記試験中心の一般入試は全体定員の1割程度と極端に少ないです。学生一人ひとりが自分ならではの「問い」を持つことを重要視していることが理由で、基本的には面接などを課す「総合型」や「学校推薦型」で選抜します。高木学長は「学生が自ら問いを立て、社会で活躍する。彼らの活躍が大人たちを、そして社会を変えていってくれる」と期待を寄せました。

専門家が読み解く、ニュータイプ大学の新設背景

少子化時代に、従来とは違う路線を行く大学が相次いで登場した背景とは。河合塾グループで大学経営全般を研究する「KEI大学経営総研」(東京)の満渕匡彦上席研究員は「ネームバリューではなく、どんな力を身に付けられるかを重視する若者が増えてきたことが要因として大きい」と分析します。

こうしたニュータイプの大学は、欧米諸国が先行し、2000年代から徐々に現れました。14年に開校した米ミネルバ大もその一例です。サンフランシスコに本部を置く四年制大学で、オンラインでの講義をベースに、学生たちが世界の主要都市を巡って現地企業やNPO、行政などと協働したプロジェクト学習などに取り組むカリキュラムを掲げています。

満渕さんは海外の事例について「プロジェクト型学習やインターンシップを正規プログラムとして取り入れることで『就職力』をアップし、即戦力になることを売りにしている」と説明。「社会が先行き不透明な中、在学中に得られる経験や、獲得できるスキルで選ばれているのではないか」と語りました。