水から読み解く野生動物の痕跡 環境DNA分析がクマ対策の新たな一手に
遊漁券アプリを運営するフィッシュパス(福井県坂井市)は、河川や海洋の水に含まれる生物の環境DNAを解析することで、その生息状況を把握する事業を展開しています。昨年末からは、深刻な被害が増加しているクマを新たな調査対象に加え、採水地点から上流約1キロ圏内において、おおむね24時間以内にクマの存在を確認できる技術を確立しました。これにより、各地でクマ対策への活用が具体化しつつあります。
環境DNA分析の仕組みと可能性
川や海の水には、そこに生息する生物の排せつ物や剥がれ落ちた細胞に由来する環境DNAが含まれています。同社の手法では、約1リットルの水を採取し、含まれるDNAと特定したい生物のDNAを照合します。これにより、生息の有無だけでなく、生息密度の推定も可能となります。また、特定の生物に限定せず、水域にどのような生物が存在するかを包括的に調査することもできるのです。
同社は2023年度に龍谷大学と連携して環境DNA調査の研究を開始し、2025年度からは福井県永平寺町にある自社の分析センターにおいて、魚類を中心に分析の受注をスタートさせました。これまでに全国の約60の漁業協同組合から、魚類の資源管理や外来種の把握を目的とした調査依頼が寄せられています。従来は網による捕獲など多大な労力を要していた調査が、環境DNA分析によって効率化できる見込みとなっています。
深刻化するクマ被害と新技術の導入
環境省のデータによれば、2025年度(今年2月末時点)のクマによる人的被害は、死者13人を含む237人に上り、過去最悪の状況を記録しています。こうした状況を受け、同社は昨年末、ツキノワグマとヒグマを判別可能な検査キットを開発しました。
実際の活用事例として、秋田県北秋田市の米代川水系サクラマス協議会が挙げられます。渓流釣りが盛んな米代川周辺ではクマによる被害が頻発しており、湊屋啓二会長自身も3年前に襲われて負傷した経験を持ちます。同協議会では既に、釣り客向けにSNSを通じてクマの目撃情報を発信していますが、今春以降は環境DNAによる生息状況のデータも周知していく方針です。湊屋会長は「身をもってクマの恐ろしさを経験しました。人による目撃情報だけではなく、科学的なアプローチも併せて取り入れたいと考えています」と語っています。
社会課題の解決と共存への貢献
フィッシュパスは、農業被害をもたらすイノシシの調査依頼も受けており、技術の応用範囲を拡大しています。西村成弘社長は「鳥獣被害という社会課題の解決に向けて、技術開発をさらに進めていきます。最終的には、野生動物との共存に貢献することが私たちの願いです」と述べ、環境DNA分析が持つ社会的意義を強調しました。
この技術は、従来の調査方法に比べて非侵襲的で効率的である点が大きな特徴です。水を採取するだけで生物の痕跡を捉えられるため、生態系への影響を最小限に抑えつつ、迅速な対策立案を可能にします。今後は、クマやイノシシ以外の野生動物への応用も期待され、持続可能な自然環境管理の新たなツールとしての発展が注目されています。



