性犯罪捜査の「レジェンド刑事」が定年 30年の軌跡を振り返る
性犯罪捜査の第一人者として知られる大阪府警捜査1課の坂本千奈津警部(60)が、今春、定年を迎える。全国初の「広域技能指導官」に指定され、「魂の殺人」とも呼ばれる性犯罪事件において、捜査による二次被害への配慮が十分でなかった時代から30年間、被害者を守るための捜査手法を模索し続けてきた。その対応した被害者は100人を超え、多くの事件解決に貢献してきた。
憧れの刑事道 新人時代の衝撃的な光景
大阪府出身の坂本警部は、刑事だった父親に憧れ、高校卒業後の1984年に大阪府警に入った。当初は警察署の交通課員として勤務し、11年目に念願の刑事となった。性犯罪捜査に関わるようになったのは1996年、事件発生直後に現場入りする機動捜査隊に入隊してからだ。
忘れられない光景がある。入隊間もない頃、性犯罪事件が発生し、現場に到着すると、5~6人の警察官が被害に遭った女性を取り囲むように立っていた。警察署や府警本部、機捜隊など各部署の警察官が、入れ代わり立ち代わり、女性に被害の内容を繰り返し聞いていたという。
「それを見たときに、もう嫌で嫌で仕方なかった。被害者をそんなに取り囲んで何がしゃべれるのって」と坂本警部は振り返る。当時は新人だったため、「やめましょう」とは言い出しにくかったが、この経験が転機となった。
被害者を守る決意 独自の捜査手法を確立
坂本警部は、「一番の現場到着」を目指すことを決意。自分がまず最初に被害者と接触し、車に乗せることで、他の警察官が来ても「私が聞いているから」と車内に入れず、被害者が複数人で囲まれる状況を防いだ。この手法は、二次被害を軽減する重要な取り組みとして評価されている。
「この経験が、自分が被害者を守ってあげなきゃいけないと思った全ての発端です」と語る坂本警部は、その後も被害者との信頼関係構築に努め、捜査の難しさに直面しながらも、真実を追求し続けた。
後進へのメッセージ 警察の常識を押しつけないこと
機動捜査隊を経て、様々な部署で経験を積んだ坂本警部は、ある事件の被害者に投げかけられた忘れられない言葉や、性犯罪捜査の困難さを振り返る。そうした経験をもとに、後進の警察官には「警察の常識を押しつけないこと」を伝えたいと強調する。
性犯罪事件では、「同意があった」という主張がしばしば争点となるが、坂本警部は被害者の声に耳を傾け、真実を明らかにする姿勢を貫いてきた。その取り組みは、捜査技術だけでなく、人権への配慮が求められる現代の警察活動において、重要な指針を示している。
定年を迎える坂本警部の30年にわたる活動は、性犯罪被害者支援の歴史の一部として、今後も多くの刑事に影響を与え続けるだろう。警察組織全体が、被害者中心の捜査を推進する上で、その教訓は貴重な財産となるに違いない。



