2016年の児童福祉法改正から10年が経過し、特別区も児童相談所(児相)を設置できるようになったことを受け、東京都内で児相の再編や新設が急速に進んでいる。都立と区立の児相が相次いで開設され、2031年度までに都内で合計26カ所となる見通しだ。児童虐待や里親委託などへの対応が強化される一方、児童福祉司ら専門職の確保や育成、定着に向けた課題は依然として山積している。
児相増設の背景と現状
2016年当時、都内には都が運営する児相が11カ所しかなかった。しかし、2020年に世田谷区、江戸川区、荒川区の3区が区立児相を開設したのを皮切りに、再編と新設が進められてきた。2025年6月時点で、都内には都立12カ所、区立10カ所の計22カ所の児相が存在する。さらに、2025年11月には杉並区、2028年7月には北区が新たに開設を予定している。
当初は練馬区を除く22区が区立児相の開設方針を掲げていたが、状況の変化により開設を断念する区も出てきた。その理由は、国が2019年に虐待対応を担う児童福祉司の配置基準を引き上げ、2021年には管轄区域の人口を「おおむね50万人以下」とするなど、より多くの人手を確保する必要に迫られたためだ。新宿区は2019年に開設予定を延期し、2024年11月の区議会常任委員会で設置しない方針を正式に表明した。同区では、繁華街などで保護した児童を児相職員が保護者の居住地域の児相まで送り、支援を引き継ぐケースが急増。区児相を設置するよりも、都の専門的人材や広域的な施設を活用する方が適切と判断した。
一方、東京都は2024年に練馬児相を新設。2025年8月に大田児相、2027年度に墨田区と台東区を管轄する児相、2031年度をめどに目黒区と渋谷区を担当する児相を設置する計画を発表している。既存の児相の廃止も含め、23区内の都児相は最終的に7カ所となる見通しだ。
専門職の確保に向けた取り組み
専門職の確保は急務であり、東京都の採用チームは学生向けの見学会やインターンシップ(就業体験)の実施、都外でのPR活動などに力を入れている。内定者には担当職員を付け、不安の解消に努めている。福祉局の吉岡琢磨担当課長は「都と区市町村が連携し、子どもや保護者により身近で、きめ細かな対応ができる体制を整えたい」と語る。
例えば、大田区は現在、品川区にある都立品川児相の管轄だが、大田児相の開設により「利便性が向上する」と期待されている。昨夏から区施設内に都児相の連携拠点を設け、職員同士が相互の会議に参加したり、合同で人材育成を行ったりしてきた。
多摩地域では、2024年度に都立町田児相を設置。2029年度に武蔵野市に多摩中部児相、2031年度に福生市に西多摩児相を設置する計画も公表されており、多摩地域の都児相は計7カ所となる予定だ。
区立児相の課題と現場の声
区立児相が増えることで、地域密着型の支援が期待される一方、現場では人材構成のアンバランスやスキル向上の難しさといった課題が浮き彫りになっている。区に新卒で採用され、区児相に配属された20代の職員は、大学で社会福祉を学んだものの、現場の現実とのギャップに戸惑いを感じている。「目が回るような忙しさ。同世代の同期が少なく、気軽に相談できる人がいないのが悩み」と打ち明ける。
区児相では異業種からの転職組も多く、都児相などで長年勤め定年退職したベテラン児童福祉司が指導役を担っている。60代の区児相職員の女性は「都児相では複数の自治体を担当するため移動距離が大変だったが、区では担当地区が一つなので、ケース一つ一つにじっくり関われるようになった」とメリットを語る。一方で、「新人とベテランが多く、経験を積む30~40代の中堅層が不足している」と指摘し、持続的な運営への懸念を示す。
都の福祉機関で働いていた社会福祉士の男性も「寄せ集めの面は否めない。『こんなことも知らないのか』という基礎からの指導が必要で、つらさがある」と明かす。それでも「基礎自治体である区の方が情報が入りやすく、地域密着だからこそできることも多い。地域で子どもを守るため、やれる改革はいくらでもある」と前向きに捉えている。
専門家の見解
児相設置に詳しい鈴木秀洋・日本大学教授は「予防的支援から一時保護まで一元的かつ迅速に行える区児相の増加には意義がある。都児相も区との連携を強化しており、地域ごとに多様な形があって良い。親や子に最適な対応ができているか、常に検証と見直しの視点が重要だ」と指摘する。
児童相談所は都道府県と政令市に設置が義務付けられている。23区ではこれまでに港区、中野区、板橋区、豊島区など10区が児相を設置した。都によると、2025年6月時点の全国の児相数は241カ所。2004年の法改正で中核市も設置できるようになり、神奈川県横須賀市などが設置しているが、数カ所にとどまっている。



