名古屋主婦殺害事件、賠償請求時効20年の壁に挑む遺族提訴 被害者夫「未解決事件の道を開く」
名古屋主婦殺害、賠償時効20年の壁に遺族が提訴 (30.03.2026)

名古屋主婦殺害事件、賠償請求時効20年の壁に挑む遺族提訴

1999年に名古屋市西区稲生町のアパートで発生した主婦殺害事件において、被害者の夫と長男が加害者に対して損害賠償を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起した。事件から26年を経て、民法に定められた20年の賠償請求権時効規定の妥当性が司法の場で問われることとなった。

26年間の闘いと「社会正義に反する」時効規定

事件は1999年11月13日、当時32歳だった高羽奈美子さんが自宅アパートで首などを刃物で複数回刺され、失血死した凄惨な殺人事件である。長年にわたり容疑者が特定されない未解決事件として扱われてきたが、現場に残された血痕と安福久美子被告(69)のDNA型が一致したことから、愛知県警察が2025年10月31日に同被告を逮捕。鑑定留置を経て、名古屋地方検察庁が2026年3月5日に殺人罪で起訴していた。

被害者の夫である高羽悟さん(69)と長男の航平さん(28)は、2026年3月30日、代理人弁護士とともに記者会見を開き、安福被告に対する損害賠償請求訴訟を提起したことを明らかにした。請求額は非公表とされているが、訴状には高羽奈美子さんの逸失利益や遺族2人への慰謝料に加え、悟さんが現場保存のために借り続けたアパートの賃料などの支払いも求められている。

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民法第724条には、不法行為から20年が経過すると賠償請求権が消滅するとの規定がある。事件発生から既に26年が経過しているため、この規定に照らせば加害者は賠償責任を負わないことになる。しかし遺族側は「犯人が逃げ隠れしていたために提訴できなかったケースにこの規定を適用するのは不当」と強く主張している。

会見で悟さんは「26年間、解決のために必死に活動してきました。年月の経過を理由に門前払いにするのは、著しく社会正義に反します」と訴え、「金額は問題ではありません。他の未解決事件の遺族の道を開くためにも、法の壁に挑みます」と訴訟の意義を強調した。

「逃げ得」を許す法制度の問題点

代理人を務める大原義隆弁護士は会見で「加害者の『逃げ得』を許す法制度の問題点について、社会全体での議論を促したい」と訴訟の意義を説明した。過去には損害賠償請求権の「時効」を否定した判例も存在しており、「司法の判断を立法による救済へとつなげたい」と述べている。

今回の事件は、2010年に凶悪犯罪の公訴時効が廃止されたことが解決につながった典型例である。刑事事件では時効が撤廃されたことで起訴が可能となったが、民事上の損害賠償請求については依然として20年の時効規定が残っている。代理人弁護士らは「刑事では罰せられるが、民事では責任がないとされる現状は、被害者救済の観点からも早急に是正されるべきだ」と指摘し、規定の撤廃や例外規定の創設を求めている。

最高裁判例を踏まえた戦略的提訴

20年以上前の殺人事件について賠償が認められた先例も存在する。1978年に東京都足立区で発生した20代女性教諭殺害事件では、遺体が26年後に発見され、公訴時効成立後に自首した男性を遺族が提訴。最高裁判所は2009年、遺族は女性の死亡を知り得なかったとして「加害者が賠償義務を免れるのは著しく正義と公平に反する」と判断し、例外的に賠償を認めた。

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この判決は相続財産について「相続人が確定してから6カ月を経過するまでは時効が成立しない」という民法の規定にも言及し、死亡を知ってから6カ月以内に提訴した遺族の賠償請求権は消滅していないと判断した。悟さんらはこの判例を踏まえ、安福被告が逮捕された2025年10月31日を「加害者に対する賠償請求権を含む財産を、死亡した奈美子さんから相続した日」とみなし、6カ月以内に当たるこの時期の提訴に踏み切った。

今後の展望と社会的意義

訴訟は刑事裁判の結果も踏まえて事実認定を進めるとみられている。悟さんは「時間はかかると思いますが、他の遺族らの思いを託されています。自分が『おかしい』と訴えないといけない」と語り、訴訟の社会的意義を強調した。

賠償が認められた場合でも、加害者側に支払い能力がなければ救済につながらない可能性もある。この問題に対し、悟さんが代表幹事を務める殺人事件被害者遺族の会「宙(そら)の会」とも協力して、賠償金を国が肩代わりした後に加害者に請求する「代執行制度」の実現も提唱していく方針を示している。

大原弁護士は「犯罪被害は誰にとってもひとごとではなく、突然家族を失えば胸が張り裂ける思いになります。国民の議論が波となれば、国を動かせる」と呼びかけ、法改正に向けた世論の盛り上がりを期待している。

この訴訟は、長年未解決だった事件の遺族が、時効という法の壁に挑む画期的なケースとして注目を集めており、今後の司法判断が同種事件の遺族救済に与える影響は大きいと見られている。