米国初のトランスジェンダー下院議員、自伝の日本語版出版が進行中
心と体の性が一致しないトランスジェンダーであることを公表した初の米国下院議員、サラ・マクブライド氏(35歳)の自伝が、日本語版として出版される見通しとなった。翻訳者であり発起人の草生亜紀子氏が中心となり、準備が進められている。
トランプ政権下での分断社会における希望のメッセージ
草生氏は、トランプ政権下で著しく変質した米国社会について言及。「分断が進み、差別意識が剥き出しになっている現代において、多様性と人間の尊厳を大切にしようと訴える若い政治家の存在を、多くの日本人に伝えたい」と語っている。マクブライド氏の自伝は、単なる個人の物語を超え、社会的な意義を持つ内容となっている。
政治への憧れと性自覚の葛藤
マクブライド氏は幼少期から政治に強い関心を持ち、中学生の頃には既に地元政治家の応援演説に関わるなど、早くからその才能を発揮していた。政治活動が盛んなアメリカン大学に進学後、学生会長に選出されるなど、順調なキャリアを築いていた。
しかし、その胸の中では常に葛藤が続いていた。世の中の通念に合わせて男性として振る舞ってきたものの、自覚する性は一貫して女性だったのだ。学生会長の任期最終日、彼女は全学に向けて「私はトランスジェンダーです」と公表する決断を下した。
温かい受け入れと政治課題への取り組み
政治の道が閉ざされるかもしれないという不安とは裏腹に、キャンパスは温かく彼女を受け入れた。「これこそ真のリーダーシップだ」「大学はマクブライドを誇りに思う」といった声が寄せられ、励みとなった。
大学4年時にはオバマ政権下のホワイトハウスでインターンを経験。そこで出会った恋人が癌と診断され、結婚式の直後に亡くなるという悲劇に見舞われる。この経験から、医療保険と有給の介護・看護休暇の重要性を痛感し、政治課題として取り組むようになった。
下院議員としての活躍と差別との闘い
2020年にデラウエア州上院議員に選出され、2024年には同州選出の連邦下院議員となったマクブライド氏は、現在も医療保険と介護・看護休暇を最重要テーマとして活動を続けている。
2期目のトランプ政権下で野党・民主党の新人議員として活動する中、共和党が上下両院を支配する状況下では、わざと「ミスター」と呼びかけるといった嫌がらせも受けた。しかし、彼女は着実に実績を積み上げ、この1年間で超党派の法案提出者に名を連ねた件数は新人議員の中で最多を記録している。
自伝の内容と日本語版出版の意義
自伝のタイトルは『Tomorrow Will Be Different――Love,Loss and the Fight for Trans Equality』(明日は変わる――愛、喪失、そしてトランス平等のための闘い)。大学卒業後、地元に帰郷した際に政治家を説得し、トランスジェンダーを差別から守る州法成立を勝ち取った過程なども詳述されている。
草生氏は「この本は、心と体の一致していない人々に勇気を与えるだけでなく、草の根民主主義の教科書としての側面も持っています。政治に絶望しかけている人々にもぜひ読んでほしい」と語る。
クラウドファンディングによる出版計画
原書が出版された2018年以降の歩みを追記した邦訳版は、サウザンブックス社(東京)から刊行される予定だ。同社はクラウドファンディング方式で翻訳書の出版費用を募っており、4月20日までに必要な資金を集める必要がある。
翻訳者の草生亜紀子氏は、全国紙の記者や出版社の編集者を経て独立し、ノンフィクション執筆や英書翻訳を手がけてきた。著書に『理想の小学校を探して』『逃げても、逃げてもシェイクスピア 翻訳家・松岡和子の仕事』(いずれも新潮社)などがある。



