小学校の健康調査票に「生理がきていますか?」 ネット上で賛否両論
ある小学校が宿泊行事の前に6年生の女子児童に配った健康調査票が、インターネット上で大きな議論を呼んでいます。その調査票の項目に「生理がきていますか?」という質問が含まれていたためです。「児童への配慮のために、先生が生理の有無を把握する必要がある」という意見がある一方で、「なぜ先生に教えなければならないのか」「配慮に欠けている」といった批判的な声も多く上がりました。本記事では、海外の事例と比較しながら、この問題の本質を探ります。
ドイツの事例:個人のプライバシー重視と「生理にオープン」な文化
筆者が育ったドイツでは、学校が女子の生理の有無を確認することはありません。性別に関わらず、日本よりも個人のプライバシーを重視する文化が根付いているからです。同時に、ドイツには「生理にオープンな雰囲気」があります。例えば、クラスメートが「生理用品を忘れた」と話すと、女子が周りの目を気にせず堂々と生理用品を渡す光景が日常的に見られます。
筆者がギムナジウム(中等教育機関)に通っていた10代の頃、教室で後ろの席にいた女子が前の席の女子にタンポンを投げ、「今から投げるよー!」と声をかける場面がありました。男子たちはそれを目で追いましたが、特に驚く様子はなく、受け取った女子も「うまくキャッチできた。ありがとう!」と嬉しそうに応じていました。しかし、このような「女子が生理にオープンであること」は、「周りの人が生理について知ろうとすること」とは別の問題です。
日本のケース:学校組織による未成年のプライバシー把握の是非
冒頭の日本の小学校の事例では、学校という組織、そして男性の先生も含む成人が、未成年の女子児童の生理について把握しようとしていました。女子児童の立場から考えると、自分の生理について言いたくなくても、目上の人である先生には断りにくい状況に置かれています。そうした想像力が欠如したまま、「必要だから」と調査票を配布したことには疑問が残ります。
近年、日本でも「生理についてオープンに話そう」という動きが見られるようになりました。しかし、オープンであるからといって、気軽に質問していいわけではありません。特に「先生と児童・生徒」といった上下関係が存在する場合は、より慎重な対応が求められます。
「みんなで把握」する行為の問題点と社会の風潮
生理を含む女性の身体に関することを、周りのみんなで把握しようとする行為について、筆者は違和感を覚えます。もちろん、男性が一般知識として「女性の生理とはこういうもの」と学ぶことは重要ですが、問題は「A子さんが……」「B子さんが……」と女性を特定して把握しようとすることです。
残念ながら、現代でも「少女が生理になった」ことを「結婚できる年齢になった」と解釈する国や地域があります。そうした文化圏では、生理は親戚や村一同で「把握すべきもの」とされ、少女にプライバシーはありません。これを「極端な例」と片付けるのは簡単ですが、冒頭の健康調査票も、立場が上の先生や学校が少女のプライバシーを聞き出そうとする点で、構造は同じです。
日本では、生理に限らず女性の身体にまつわることについて「周囲が口出しをするのは当たり前」という風潮があるように感じられます。例えば、女性が出産する際の分娩方法や、産後の育児方法について、配偶者や親族が口を挟むことが今でも少なくありません。性行為や妊娠に関する話題でも同様で、女性が自分の身体や将来について自分で決めることに対する抵抗感が社会に存在しているのではないでしょうか。
そもそも「生理の確認」は必要なのか?
こうした社会の風潮を考えると、女子児童に対し、学校や先生が「生理」について聞き出すことは好ましくないと思います。質問をする側の大人も受ける側の女子児童も、「当たり前のこと」だと受け止めてしまうと、この悪しき風潮を助長する恐れがあります。「自分の身体について質問をされたら、いやだと思っても答えなければならない」と女子児童に思わせることは大きな問題です。
そもそも、生理に関する調査は本当に必要なのでしょうか。生理は特別なことではなく、小学校高学年の女子児童であれば、いつ、どこで、誰に生理がきてもおかしくありません。その前提で、学校や先生は備えておく必要があります。学校と保護者の間で、生理用品を常備しておくことなどを確認しておけば、誰が生理になっているかを把握する必要はないでしょう。もし男性の先生が一般知識として生理について学びたいのであれば、セミナーやワークショップに参加するなどして勉強すればよく、女子児童に確認する必要は全くありません。
スペインの「生理休暇」事例とプライバシーのジレンマ
スペインでは2023年に「生理休暇」が導入され、ヨーロッパ初の試みとして話題になりました。日本では既に戦後の1947年から生理休暇が存在しており、この点では日本の方が昔から女性の生理に配慮があるという見方もできます。スペイン議会で法案が可決された際、イレーネ・モンテロ平等担当大臣は「フェミニストの勝利」と語りました。
しかし、その後、予想に反してスペインの女性が生理休暇を利用していないことが判明しました。当初は6万人が取得すると予測されていましたが、実際には1559人しか利用していませんでした。オーストリアのメディアは、普及しなかった理由として「生理のたびに医者の診断書が必要なこと」「取得した人に対する周囲の否定的な見方(スティグマ化)を女性たちが恐れていること」を挙げています。ヨーロッパの女性はプライバシーを重視するため、生理休暇を取得すると「個人的な身体のことが周囲に知れ渡ってしまう」というジレンマがあるのです。
尊重されるべきは本人の判断
どんな状況下であっても、「女性が自分の身体や将来について自分で決める」ことが尊重される社会であってほしいと思います。周囲に開示するか否かは、あくまでも本人の判断で行うべきことです。周囲が安易に確認したり、口を挟んだりすることには、慎重になったほうがよいでしょう。
(コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)



