岐阜薬科大学の林秀樹教授(53)が率いる研究チームは、災害時でも安心して調剤ができる移動式薬局「モバイルファーマシー」の実用化に取り組んでいる。キャンピングカーをベースにしたこの薬局は、車内に調剤設備を完備し、避難所などで即座に薬を提供できる環境を整える。東日本大震災では、被災地に医薬品が届いても粉薬を分包する設備がなく、患者に渡せないケースが多発した。この経験を踏まえ、供給と調剤のギャップを埋めるために開発が進められた。
モバイルファーマシーの仕組みと実績
モバイルファーマシーは、キャンピングカーを改造した移動型薬局で、調剤台や薬品棚、分包機などを搭載。熊本地震では実際に現地で稼働し、1日に数十人規模の患者に対応した実績がある。林教授は「薬剤師は調剤だけでなく、医薬品の供給や環境管理まで担う存在」と強調し、災害医療の最前線で重要な役割を果たすと語る。
ドローンを活用した医薬品輸送の実験
さらに研究チームは、ドローンを使った医薬品輸送の実験も進めている。モバイルファーマシー同士で薬を融通できれば、現場の柔軟性が大幅に向上する。実験では空路で車両間の医薬品配送を検証するが、実用化には航空法などの法規制や通信環境の整備といった課題が残る。
平時からの活用:過疎地での運用
災害時だけでなく、平時からモバイルファーマシーを活用することも重要なテーマだ。導入や維持にはコストがかかるため、災害時のみでは運用経験が蓄積されにくい。そこで林教授は、薬剤師が不足する過疎地で移動薬局として日常的に運用するアイデアを打ち出した。日常的に調剤を行うことで人材とノウハウを維持し、災害時にもすぐに動ける体制を構築する。実際に過疎地での試験運用では手応えを得ており、地域医療の向上にも貢献できると期待されている。
課題と今後の展望
林教授は「モバイルファーマシーがあれば全て解決するわけではない」と慎重な姿勢も見せる。被災地で最も重要なのは医薬品の流通そのものであり、薬が届かなければ何も始まらない。成功例だけでなく、何が不足していたかを検証することが重要だと指摘する。研究チームは、災害医療の現場で積み重ねた経験をもとに、より実効性のある仕組みを探り続けている。



