成年後見制度の光と影 自立生活を送る女性の現実
認知症や障害によって判断力が低下したとみなされた人々の財産管理や契約を支援する成年後見制度。この制度の下では、後見人がつけられると、本人の判断能力が常にないものとみなされ、自身の財産であっても自由に扱うことができなくなります。制度の利用者の中には、判断力が回復した後も、自分のお金を管理する権利を取り戻せずに苦しむケースが存在しています。
交通事故がきっかけ 姉による後見申し立て
大阪市に住む56歳の女性は、13年前に交通事故による障害を理由に成年後見人をつけられました。2008年12月の夜、自転車に乗っていた女性は軽トラックにはねられ、重傷を負いました。右鎖骨、骨盤、右頭蓋骨の骨折に加え、左足首の麻痺と高次脳機能障害という記憶障害の後遺症が残りました。
女性自身が2010年に書き残した体験記には、「約5メートル飛ばされ、ずっと寝たきりになってもおかしくないぐらいの重傷でしたが、翌年3月には立てるようになり、同年5月にはつえと装具でなんとか歩けるようになりました」と記されています。この事故による賠償金と親からの相続により、女性には多額の預貯金が形成されました。
「財産を守るため」として、姉が大阪家庭裁判所に成年後見の開始を申し立てたことで、女性の生活は一変します。成年後見制度には、必要な支援の度合いによって「補助」「保佐」「後見」の三つの類型がありますが、女性が適用されているのは最も制限の強い「後見」です。この類型では、判断能力が「欠けているのが通常の状態」とみなされ、後見人の同意なしでは預貯金の管理や重要な契約、不動産売買などが認められません。
日常的な判断には支障なし 取材で明らかになった生活実態
3月下旬の取材では、女性は待ち合わせ場所に一人で現れ、日ごろの生活ぶりを具体的に語りました。取材後には近所のスーパーで買い物をして帰宅するなど、自立した日常生活を送っている様子が確認できました。支援者と大阪市内を歩く姿も観察され、つえや装具を使わずに歩行できる状態です。
しかし、成年後見制度下にあるため、女性は自分の預金残高さえ教えてもらえない状況に置かれています。後見がついてから10年以上が経過し、一人暮らしでも日常的な判断に困っていないように見えるにもかかわらず、制度から抜け出せないでいます。
制度の構造的課題 回復しても外せない現実
この事例は、成年後見制度の構造的な課題を浮き彫りにしています。障害の状態が回復しても、簡単には後見を外せない制度設計が問題視されています。女性は後見がつくことに当初から反対の意思を示していましたが、その声は届きませんでした。
成年後見制度は本来、判断能力が不十分な人々を保護することを目的としていますが、必要以上に本人の権利を制限する結果を招くケースも少なくありません。制度の利用が長期化すると、本人の意思や能力の変化に対応できず、かえって自立を阻害する要因となる可能性があります。
制度見直しの動きと今後の課題
近年、成年後見制度の抜本的な見直しを求める声が高まっています。「必要な事柄・期間だけ」の利用を可能にする法案の検討も進められており、制度の柔軟な運用が期待されています。しかし、現行制度の下では、一度後見が開始されると、その解除には複雑な手続きと時間を要するのが実情です。
この女性のケースは、制度の利用が長期化した場合の課題を如実に示しています。財産保護と本人の自立支援のバランスをどのように取るか、制度設計の根本的な問い直しが求められています。判断能力の回復が見られる場合でも、後見を継続する必要性を定期的に評価する仕組みの導入が検討されるべきでしょう。



