2026年秋に開催される愛知・名古屋アジア大会のクリケット競技に向け、テスト大会が5月8日、愛知県日進市の県口論義運動公園で開幕した。通常は野球場として使用されるこのグラウンドは、昨年6月にクリケット会場に決定後、急ピッチで改修が進められてきた。その整備を支えたのが、岐阜県多治見市と愛知県瀬戸市の業者だ。「焼き物のまち」として知られる両地域の粘土と加工技術が、アジアの祭典の舞台に生かされている。
テスト大会が開幕
テスト大会「男子T20ワールドカップ東アジア太平洋予選」の第1試合では、フィジーとバヌアツの選手たちが熱戦を繰り広げた。直径70メートルの円形グラウンドの中央部には、茶色の粘土が広がっている。このエリアは「ピッチ」と呼ばれ、長さ25.5メートル、幅15メートルで、試合の大部分が行われる重要な場所だ。そこに敷き詰められているのは、会場から約20キロ離れた多治見市の粘土である。
理想の粘土を求めて
日本クリケット協会の宮地直樹CEOは、この粘土に出会えたことに驚きを隠せない。「ピッチはクリケットの要です。そこに適切な粘土が、実は会場の近くにあったなんて」。協会が質の高い粘土を探し始めたのは2024年秋のこと。クリケットでは投手(ボーラー)がワンバウンド投球を多用するため、粘土の質がボールの跳ね方や勝敗を左右する。しかし、これまで国内産の粘土ではイレギュラーバウンドが発生しやすく、大きな課題となっていた。
「きめ細かく、粘りけが強く、乾くと硬く引き締まる」という理想の粘土を求め、宮地さんらは全国各地に問い合わせを行った。その過程で多治見市にたどり着く。他の地域では粘土があっても採掘業者がいないケースがあったが、多治見では普段から三州瓦の原料として粘土が扱われており、採掘から加工まで一貫して対応できる業者が存在した。早速、77トン分の粘土が仕入れられた。
瀬戸市の技術が加工を担当
粘土の加工を担当したのは、瀬戸市で陶磁器用原料の製造販売を手がける「山磯」だ。専門業者の協力を得て、乾燥、粉砕、ふるい分けが行われた。ポイントは粒の大きさにある。通常、焼き物用の粘土は粉状に加工されるが、ピッチに敷く際には適度に水が染み込むよう、1円玉大の粗さに仕上げられた。乾燥時に水分が飛びすぎないよう細心の注意が払われ、山磯の可児忠之事業部統括部長は「風が吹くだけで一気に乾燥してしまう。風のない3日間を狙って慎重に作業した」と振り返る。
加工された粘土は2024年末、栃木県佐野市の国際クリケット場で試験的に使用され、好評を得た。この結果を受け、県口論義運動公園のピッチにも採用された。多治見の粘土が実用化されたことで、宮地さんは「海外から輸入する必要がなくなった」と喜びを語る。「いろんな方に助けてもらってこのピッチがある。アジア大会のレガシーになればいい」。
テスト大会は5月10日まで開催される。中部地方を代表する陶磁器産地に支えられ、秋の本大会を迎える準備が整いつつある。



