アフォーダブルEVの波が世界を席巻、バリューチェーンに勝機
電気自動車(EV)の販売拡大は着実に続いており、国際エネルギー機関(IEA)によれば、2025年の新車販売に占めるEVの割合は25%に達したと見られている。短期的な市場の動向には悲観的な見方もあるものの、長期的な成長トレンドは多くの専門家が否定しない。では、現在のEV市場はどのような局面にあるのか。伊藤忠総研のエグゼクティブ・フェロー、深尾三四郎氏に詳しく話を聞いた。
物価高騰がEV低価格化を後押し
近年、電気自動車の価格下落が目立っている。深尾氏は、全世界で物価高が広がる中、一般的な消費者が手頃な商品を求める傾向が強まり、これがEV市場にも波及していると指摘する。特に、価格が手頃な「アフォーダブルEV」への需要が高まっているという。
価格下落の主な要因は、車載電池のコスト低下にある。深尾氏によれば、電池価格は予想以上に早いスピードで下落しており、中国メーカーが景気の悪化の中で過当競争を展開していることが背景にある。かつてはEVの最大のコスト要因だった電池が安価になり、低価格なEVの製造が容易になっている。
さらに、安価な電池でも品質は高く、例えばリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の急速な技術改善により、小型車でも長い航続距離が可能になっている。これは最近1年から1年半のトレンドとして注目されている。
小型EVの台頭とアフォーダブル化の進展
従来、EVは航続距離を確保するために大型車に搭載されることが多かったが、現在では全長3.8~4.2メートルの「Bセグメント」と呼ばれるサブコンパクトカーにもEVが登場している。代表的な例として、この春発売のフォルクスワーゲンの「ID.ポロ」や、日本のスズキ「eビターラ」が挙げられる。
深尾氏は、これらの小型EVが日本のEV市場のキラーコンテンツになる可能性があると語る。国の補助金を利用すれば200万円台で購入できるため、EVがより手頃な価格帯に近づいている。アフォーダブルEVの目安価格は、米ドルで3万ドル、ユーロで3万ユーロ、日本円で300万円程度とされる。
これまでEVの利用者は比較的裕福な層が中心だったが、今後は一般消費者をターゲットにした「お手頃感のあるEV」が主流になると予想される。そのためには、安価な中国製LFP電池の搭載が進む流れが加速すると見られている。
欧州での中国製電池調達の広がり
自動車メーカーが電池を自社または自国で開発・生産する動きについては、深尾氏は費用対効果の観点から、中国製の高品質な電池を利用する方が合理的だと指摘する。欧州では、新興電池メーカー「ノースボルト」が価格競争で採算が合わず破産した事例があり、中国製電池を受け入れる割り切りが生じているという。
同様に、日産自動車が北九州での電池工場計画を中止したことも、賢明な判断だと評価されている。中国メーカーとの競争では太刀打ちできない現実を反映している。
日本市場への影響と将来展望
安価で良質なLFP電池が中国から日本に入ってくる可能性について、深尾氏はアフォーダブルEVの需要が高まれば、LFP電池の導入が進むと見ている。三元系電池もある程度需要が拡大するが、LFP電池ほどの伸びは期待できないという。
一方で、全固体電池などの次世代型電池も選択肢として現れてくるが、中国メーカーの迅速な技術開発と大規模な投資により、短期的にはLFP電池で技術や安全性を向上させ、中長期的には次世代電池市場も支配する可能性が高いと分析する。これは、テレビ用パネルで日本が中韓に負けた事例に似ていると指摘する。
2026年の日本EV市場と日本メーカーの勝機
2026年の日本EV市場では、中国BYDが軽EVの商品投入を控えており、国内各社も新モデルを投入する予定から、ラインアップが増加すると見込まれる。深尾氏は、アフォーダブルEVの波が本格的に日本に到来することが、2026年の大きな注目点だと強調する。
アフォーダブルEVの普及の中で、日本メーカーの勝ち筋について、深尾氏は新車販売後の「アフターサービス」に注力することが重要だと語る。顧客の所有車の価値を維持・向上させる「バリューチェーン」に勝機があるという。
今後、自動車産業に限らず製造業全体で、半導体やレアアースなどの素材調達が困難になる時代が来ると予測される。その中で、限られた資源を長く使用するトレンドが強まり、20~30年壊れないように車の質を維持するサービスが重要になる。これは中国企業が真似できない日本企業の強みであり、自動車ビジネスが「売り切り」から持続的な価値提供へと変化していくことを示唆している。



