カンヌ国際映画祭での「急に具合が悪くなる」の公式上映が終わり、会場が万雷の拍手に包まれる中、モデルとして参加した人類学者の磯野真穂さんの目から涙があふれた。心の中には、原作となった往復書簡集を共に紡ぎ、がんと闘いながら亡くなった哲学者の宮野真生子さんがいた。
原作者への思いが涙に
翌週の23日には、2人をモデルに主演した岡本多緒さんとビルジニー・エフィラさんが女優賞に輝いた。磯野さんは「原作の魂を残したまま映画というアートに入れ込んでくれたことで、深さも色彩もより豊かになった」と語る。
書簡集の背景
書簡集は2019年にやりとりされた計20通を収める。宮野さんは、痛み止めさえ取り除けない苦しみに見舞われながらも、磯野さんを伴走者として、人との出会いやその偶然性について思索を跳躍させていった。「宮野さんが学問としてやってきた哲学を生きた刹那が、あの書簡集だった」と磯野さんは振り返る。
映画の評価
映画を見た磯野さんは、底流にあるものをしっかりつかみ取ってくれたと感じた。「言葉と言葉が出合って生まれてくる世界のありようが書簡集と同じだった」と述べ、女優賞を受けた2人に感謝の言葉を贈った。「静かで真摯で、華やかな演技をありがとう」



