合併後の南伊勢町、商店消え生活の足はデマンドバス 公共交通維持に苦悩
合併後の南伊勢町、公共交通維持に苦悩 商店消え生活の足はデマンドバス

「平成の大合併」から20年以上が経過した。三重県では2003年から2006年にかけて、69市町村が29市町に再編され、行政の効率化や基盤強化を目指して合併が進められてきた。しかし、人口減少が加速する中で、広域化した自治体の運営には新たな課題が浮上している。

商店が消えた土地で欠かせない生活の足

複雑に入り組んだリアス海岸に沿って、一台のワゴン車がゆっくりと走る。4月末の午後、南伊勢町阿曽浦地区。地元に住む82歳の女性は友人とともに、町が運行する予約制の「デマンドバス」に乗っていた。2週間に一度、近所の数人と一緒に乗り合わせ、片道約30分かけて町の中心部にある大型スーパーへ向かう。

「不便な場所ですが、バスが近くまで来てくれるので助かります」。かつて真珠養殖で栄えたこの地区からは、食料品や日用品を販売する商店のほとんどが姿を消した。数年前に夫(85歳)が運転免許を返納してから、買い物にはこのデマンドバスが欠かせない存在となっている。

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南伊勢町の合併の背景

南伊勢町は、2005年10月1日に旧南勢町と旧南島町が合併して誕生した。町域の約6割が伊勢志摩国立公園に指定され、海岸線の総延長は245.6キロメートルに及び、県全体の海岸線の約4分の1を占める。

旧両町の合併により誕生した南伊勢町は、東西に長い形状が特徴だ。急峻な山々が海に迫り、沿岸部のわずかな平地に38の集落が点在する。鉄道は通っておらず、町内全域に張り巡らされた民営・町営バスが、人口の半数以上を占める高齢者の「生活の足」となっている。

公共交通維持の課題

「合併による面積の拡大に伴い、公共交通を広範囲に均等に整備する必要がありました」と町の担当者は振り返る。合併当時、旧2町を結ぶ公共交通は存在しなかったが、町は2007年に両町間の連絡バスを新設。2012年には、公共交通の利用が難しい「交通空白」地域を解消するため、デマンドバスの運行を開始した。

デマンドバスは、乗降場所や時間を柔軟に選択できるため、通院や買い物に車を使えない高齢者から高い需要がある。2023年10月から2024年9月までの利用者は延べ約1万8000人に上った。

一方で、導入による運行台数の増加に伴い、人件費や燃料費を含む運行委託料は年々上昇。合併直後の2006年度から2025年度で約3倍の3億円に膨れ上がった。小規模な2町が合併した目的は、行財政基盤の強化や住民福祉の増進だったはずだが、人口減少に伴い利用者は減少し、運賃収入は右肩下がり。財政に重い負担がのしかかっている。

新たな取り組み:公共ライドシェア

交通インフラの維持が難しくなる中、町が活路を見いだそうとしているのが、一般ドライバーが有料で客を運ぶ「公共ライドシェア」だ。運転を担うのは、町内で活動するNPO法人の職員や地域おこし協力隊。2024年7月、近隣の伊勢市や志摩市に接続する民営路線バスが1日4便減便された宿浦地区と田曽浦地区の住民向けに、実証運行を開始した。

また、町外の高校に通う生徒向けに、平日朝に路線バスが接続する隣町の停留所と町内の一部地区を結ぶ実証運行も開始。始業前の部活動など学生生活を充実させることで、進学による若年層の人口流出を防ぐ狙いがある。

町環境生活課の里中重信課長は「事業のコスト意識を持ちながら、より身近で利用してもらえる公共交通の構築に、地域ぐるみで努めたい」と前を向く。

持続可能な公共交通への模索

時間外労働(残業)の規制による運転手不足が深刻化する中、民間事業者によるバスの減便や路線廃止の動きは今後も続くとみられる。持続可能な地域公共交通を実現するため、試行錯誤が続いている。

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