長崎県唯一の女性杜氏、臨床心理士から転身…父の遺志継ぎ地元に根ざす酒造り
女性杜氏が臨床心理士から転身、父の遺志継ぎ地元貢献

長崎県唯一の女性杜氏、父の死きっかけに臨床心理士から転身

長崎県諫早市で約180年の歴史を誇る老舗蔵元「杵の川」に、県内唯一の女性杜氏として活躍する瀬頭りつ子さん(50)がいる。彼女は、臨床心理士としてのキャリアを経て、2016年に家業に入社。その転身の背景には、父の死と地元への深い想いがあった。

父の遺志を継ぎ、酒造りの道へ

瀬頭さんは、蔵元の社長だった父が亡くなったことをきっかけに、酒造りの世界に飛び込んだ。それまで臨床心理士としてカウンセリングに従事していたが、父のお別れ会で集まった人々の話や遺品整理を通じて、父が酒造りだけでなく、商工・観光団体のメンバーとして諫早のために尽力していたことを知る。

「父が一生懸命働いていた姿を知り、遺志を継ぎたいと思うようになりました」と語る。清酒の販売量が減少する中、日本古来の酒造り技術を後世に残すことと、ふるさと諫早への地域貢献を両立できるのは醸造部だけと考え、蔵人としての道を選んだ。

臨床心理士の経験を活かした前向きな勉強

酒造りの勉強は、広島にある国の独立行政法人・酒類総合研究所で一から学んだ。米や酵母についての知識がなかったため、当初は負い目を感じたが、「開き直って教えてもらいました」と振り返る。物事を悪く考えず前向きに取り組めたのは、臨床心理士としての経験が役立ったという。

2023年から杜氏として酒造りを始めたが、課題は多い。同じタンクでも冷え方に癖があったり、温暖化の影響で夏場の暑さが米の質に悪影響を与えたり、米不足による価格高騰など、様々な問題に直面する。

地元に根ざした酒造りを目指して

瀬頭さんが目指すのは、「食中酒」にこだわった酒造りだ。日本酒と料理を独自のペアリングで楽しんでもらうため、地元の食材に合わせた酒を造りたいと考えている。できるだけ諫早産の原料を使用し、地域に根ざした酒造りを推進する。

昨季は、全国新酒鑑評会と福岡国税局酒類鑑評会でダブル受賞を果たし、その実力が認められた。瀬頭さんは、3人きょうだいの末っ子として生まれ、家業は兄が継ぐと考えていたが、「人の役に立ちたい」という想いから臨床心理士を志した経緯もある。一時は海外でエイズカウンセリングを行うことも検討していたが、今では地元の酒造りに情熱を注いでいる。

彼女の挑戦は、伝統産業の継承と地域活性化を結びつけるモデルケースとして、多くの人々に勇気を与えている。