幻のフルーツ「クネンボ」が山口県萩市で復活、10個の実を収穫
時代の流れとともに栽培が途絶えたり、収穫時期の短さから市場にほとんど出回らなくなったりする果物があります。そんな「幻のフルーツ」を地域資源として復活させようとする試みが、各地で進められています。山口県萩市では、東南アジア原産のかんきつ類「クネンボ」が注目を集めており、栽培に取り組む関係者たちが今年初めて10個の実を収穫しました。この取り組みは、加工品の開発を通じて販路拡大を目指す動きとも連動しています。
クネンボの特徴と歴史的背景
クネンボは、酸味と甘みのバランスが良く、果皮に独特のにおいを持つことが特徴です。10世紀には日本で栽培されていたとされ、歴史的な記録も豊富です。幕末の思想家・吉田松陰が獄中から妹に送った手紙には、クネンボを差し入れしてもらったと記されており、明治時代初めには山口県が全国一の生産額を誇っていました。
しかし、その後、種の多さや独特のにおいが敬遠されるようになり、夏ミカンや温州ミカンの栽培が拡大する中で、クネンボは次第に姿を消していきました。このような背景から、クネンボは「幻のフルーツ」として知られるようになり、地域の記憶の中に埋もれていったのです。
復活への道のりと現在の成果
クネンボ復活のきっかけは、2018年の明治維新150年記念事業でした。萩藩のおもてなし料理が再現される中で、メニューにクネンボが含まれていることが判明。山口大学名誉教授の五島淑子さん(70)や松陰神社宝物殿至誠館長の樋口尚樹さん(71)らが県内で栽培を探しましたが、見つからず、神事用に栽培している福岡県宗像市の宗像大社から枝を分けてもらいました。
苗木を丁寧に育て、昨春までに松陰神社や国指定重要文化財の熊谷家住宅など、萩市内の7か所に植え付けました。今年1月上旬、そのうち3か所で初めて実が付き、計10個のクネンボが収穫されました。五島さんと樋口さんは、実の成長に驚きと喜びを隠せませんでした。
この成果は、地域の歴史と文化を再評価する動きとも連動しています。クネンボは、単なる果物ではなく、萩藩の伝統や吉田松陰の逸話を伝える文化的な資源としても位置づけられており、その復活は地域活性化の一環として期待されています。
今後の展望と課題
クネンボの復活はまだ始まったばかりですが、今後の展開には大きな可能性が秘められています。関係者たちは、栽培技術の確立や収量の増加を目指すとともに、加工品の開発にも力を入れています。例えば、ジャムやジュースなどの商品化を通じて、販路を拡大し、地域経済への貢献を図る計画です。
また、クネンボの独特の味わいを活かした料理の提案や、観光資源としての活用も検討されています。これにより、萩市の魅力を高め、訪れる人々に新たな体験を提供できるかもしれません。
一方で、課題も残されています。クネンボの栽培には時間と手間がかかり、市場での認知度を上げるための努力が必要です。さらに、気候変動や病害虫のリスクにも対応しなければなりません。しかし、地域の熱意と協力があれば、これらの課題を乗り越え、クネンボが再び人々の食卓を彩る日が来るでしょう。
この取り組みは、他の地域でも参考になる事例として、希少な農産物の保存と活用の重要性を改めて示しています。幻のフルーツが蘇る物語は、私たちに地域資源の価値を見直す機会を与えてくれるのです。



