埼玉県さいたま市南区南本町の住宅街に、地域の人々が集い、アートを通じてつながるカフェがある。JR南浦和駅から徒歩5分ほどの場所に位置する「STAND COFFEE コトコト」は、3階建ての一軒家の1階を改装した、アットホームな空間だ。カウンター席とギャラリースペースを合わせて約10席の店内には、美術作品や展覧会のチラシが所狭しと並び、訪れる人々を温かく迎え入れる。
アートを愛する店主の思い
店主の野口敬さん(68)は、「全部僕の趣味です」と笑いながら、ハンドドリップでコーヒーをいれる。その手際よい動作の合間にも、訪れた客との会話に花を咲かせる。野口さんは「僕とお客さんとの会話から、だんだんお客さん同士で会話が広がっていくんです」と語る。さまざまな人が集い、自然とつながりが生まれていくのがコトコトの魅力だ。
地域との絆を深める活動
コトコトを起点に、浦和にアトリエを構えた前衛美術家・瑛九の功績を伝える団体が発足したこともある。また、常連客の勧めで国蝶「オオムラサキ」の幼虫を店で育て、羽化するまで世話をし、地域の子どもたちと観察日記をつけたこともある。こうした活動を通じて、地域住民との絆を深めている。
地元への恩返しとして開店
野口さんがコトコトを開いたのは2019年4月。定年が近づいた頃、50年来の友人から「そろそろ地元に恩返ししないか」と言われたことがきっかけだった。その言葉に共感した野口さんは、地域の人々が気軽に交流できるカフェを開くことを決意。美術大学出身の経験を生かし、「アートを軸に何かできないか」と考え、店内にギャラリーを設けた。
アートを通じた交流の場
普段は自身が購入した絵画などを飾り、アーティストの個展や近隣の中学校の美術部の作品展にも場所を提供している。個展の出展者と共に子ども向けのワークショップも開催。過去には印画紙に物体を置いて光を当て、影を写す「フォトグラム」を制作した。さらに、地域の子どもたちに生の芸術に触れてもらいたいとの思いから、オペラ公演を地元で開催する活動にも携わっている。
命あってこその出会い
野口さんは小学生の頃、交通事故で大けがを負い、一命を取り留めた経験を持つ。「たくさんの人たちとの出会いは、命あってこそ」と思うようになり、人との縁を大切にしてきた。コトコトを訪れる客との会話の中で、地元でボランティアに取り組む人や、これまで関わったアーティストを紹介し、新たなつながりを生み出している。それが野口さんなりの地元への恩返しだ。
これからのコトコト
開店から7年が経ち、当初は「70歳まで」と考えていたが、今はもう少し長く続けるつもりだ。「コトコトとゆっくり前に進んでいければ」と野口さんは語る。看板メニューは完熟マンゴーで、メキシコやペルーなど世界各国から一年中取り寄せている。営業時間は午前10時から午後6時まで。月曜と火曜は定休日(不定休あり)。



