墨田区の靴クリーム会社5代目社長、家業を磨き改革推進
墨田区の靴クリーム会社5代目社長、家業を磨き改革推進

墨田区に本社を置く日本最古の靴クリームメーカー「谷口化学工業所」の5代目社長、谷口弘武さん(37)が、家業の伝統を守りながらも大胆な改革を進めている。同社は「ライオン靴クリーム本舗」のブランド名で革靴愛好家の間で知られる。

家業への思いと転身

谷口さんは東京都台東区出身で、創業家に生まれた。幼い頃から工場に出入りして遊び、家業に親しみを持って育った。大学卒業後はIT企業に就職し、営業として製造業を担当。日本のものづくりが社会を支えていることを改めて学び、家業を継ぐ決意をした。

2017年に入社した当時、会社は3代目で88歳の祖父が経営していた。しかし、蓋を開けてみると昭和的な社風で財務的にも厳しい状態。就業規則もボーナスも、会社のホームページすら存在しなかった。「時代から取り残されていた。斜陽産業とは分かっていたが『いつつぶれてもおかしくない』とショックだった」と振り返る。

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改革への挑戦

祖父や4代目の父は「良い商品を作ればうまくいく。我慢すればいつか光が差す」という考えだった。しかし谷口さんは「良い商品を作るのは大前提。ニーズに応えて、自社の魅力をPRしないと倒産する」と訴え、父と度々ぶつかり合った。

2021年4月に社長に就任すると、次々と社内改革を進め、IT技術を導入。しかし現場の評判は芳しくなく、「何をやりたいんだか分からない」と陰で言われることもあった。長年会社を支えてきた職人からは「弘武くんのみこしを担ぐ人は誰もいないよ」と突き放された。

それでも心は折れなかった。「家業だから。自分が折れたらその時点で全てが終わる。紡いだ歴史だけでなく、従業員さんの人生を変えてしまう」と語る。

認知度向上と新たな展開

必死に働く中で、商品の認知度が徐々に向上。2018年から始めたインスタグラムやテレビ番組での露出がきっかけとなった。メディア露出が増えると、社員も自分たちの仕事が注目されることで誇りを持ち始め、改革を受け入れるようになった。

また、従来は日用品だった靴クリームが、現在では「革靴好きの嗜好品」となっている事実を受け入れ、品格をまとったパッケージに変更し、昭和時代から据え置きだった価格を改定。さらに木工塗料やレザーケア用品なども手がけるようになった。現在も工場で自らロウや油の配合を実験し、新商品の開発に取り組んでいる。「斜陽産業でも、前に進むチャレンジはいくらでもできる」と意気込む。

未来への展望

谷口さんは、靴磨きの時間を豊かに過ごし、自分の気持ちをリセットしてほしいと願っている。「靴磨きには夢がある。その世界観をいかに伝えられるか」。5代目の挑戦は続く。

会社概要

谷口化学工業所は1910年(明治43年)創業。墨田区東駒形4の14の2に所在する。日本最古の靴クリームメーカーとして知られ、墨田区の地場産業である皮革文化を支え、国内初の「ライオン靴クリーム」を開発。職人が大釜を使い、気温や湿度に合わせて原料を練り上げる伝統の製法を今も守り続けている。現在の従業員は12人。問い合わせは同社(電03-5611-7351)まで。

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