栗山民也演出「大地の子」、理不尽な運命に抗う声なき声を演劇でよみがえらせる
栗山民也演出「大地の子」、声なき声を演劇でよみがえらせる

栗山民也演出「大地の子」、理不尽な運命に抗う声なき声を演劇でよみがえらせる

山崎豊子の長編小説を原作とする舞台「大地の子」が、東京・浜町の明治座で上演中だ。戦争を見つめる数々の舞台を手掛けてきた栗山民也が演出を担当し、中国残留孤児とその家族の壮大な運命を描き出している。期待をはるかに上回る力作として、観客の心を揺さぶっている。

戦後の満州で生き別れ、苦難の人生を歩む勝男

物語は、第2次世界大戦後の満州(現中国東北部)に取り残された勝男(井上芳雄)から始まる。妹のあつ子(奈緒)と生き別れになった彼は、小学校教師の陸徳志(山西惇)と淑琴(増子倭文江)夫妻に救われ、「陸一心」と名付けられる。温情に包まれて優秀な青年に成長するが、文化大革命の嵐の中で無実の罪を着せられ、労働改造所に送られて過酷な生活を強いられる。

脚本家マキノノゾミの巧みな構成と栗山演出の空間表現

長大な原作を脚本化したマキノノゾミは、冒頭であつ子を語り手に設定し、家族の物語を軸に据えた。内蒙古自治区で羊番をしていた一心は、日本生まれの華僑・黄書海(浅野雅博)に出会い母国語の大切さを学び、破傷風で生死の境をさまよった時には後に妻となる看護師・江月梅(上白石萌歌)に救われる。栗山演出は、人物の影を多用し空間に奥行きを持たせることで、舞台上に時間の流れと大陸の広大さを現出させた。

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井上芳雄らキャストの熱演が物語に深みを加える

スマートなミュージカルスターとして知られる井上芳雄は、苦しみと悲しみに耐え抜く男の貌を見事に演じきった。妹役の奈緒は、何十年ぶりかの再会でふり絞るせりふが切なく、一心の妻役の上白石萌歌は芯の強さと清楚なたたずまいが爽やかだ。日本の戦後を生きた勝男の実の父を演じる益岡徹の悔恨と苦渋の表情も忘れがたい。

演劇がよみがえらせる声なき声と現代的な響き

彼ら彼女らは、過酷で理不尽な目に遭いながらも生きることをあきらめなかった。生者であれ死者であれ、いま目の前にはいない人たちを思う気持ちが支えとなったのだ。そして、そんな無数の人の声なき声をよみがえらせるのが演劇という装置そのものだ。最先端技術を教える側だった日本と中国の立場が逆転した現代を視野に入れたこの舞台では、「大地の子」たちの声が原作連載やテレビドラマ化された1980~90年代とは異なる響きを帯びている。

上演は17日まで、東京・浜町の明治座で続く。理不尽な運命に抗い、希望を失わない人々の物語が、演劇の力で新たな命を吹き込まれている。

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