第4回 兄妹の別れ
玄関に向かうと、すでに母の時枝と、妹の清乃がかしこまっていた。時枝が倫太郎を見上げて言った。
「本日はお日柄もよく、絶好の旅日和でございます。道中、お気をつけて行ってらっしゃい」
「かたじけのうございます」と倫太郎が頭を垂れた。
母の隣に座る、五つ歳下の清乃が俯き、肩を震わせていた。思わず、胸が苦しくなる。自分が江戸へ行ってしまうと、時枝と清乃だけの女所帯となる。それが少々不安ではあった。が、それも江戸屋敷で、見習いから正式に賄い方のお役を賜れればよい。笹本家のように定府になって母と妹を呼び寄せることもできるかもしれない。
倫太郎は清乃の前に跪き、言った。
「清乃、しばらくの間、ちゅん太を頼むぞ」
そのか細い肩に優しく手を置いた。清乃は、ただ頷くばかりで面を伏せたままだ。
「よいか。ちゅん太を狙っておる隣家の猫がおる。先日は縁の下にたぬきもいた。なにより危ないのが、坂上の伯父貴だ。丸々太ったちゅん太を焼き鳥にしようと狙っておる」
え? 伯父さまが! と、ようやく清乃が声を上げた。黒目がちな大きな眼をさらに見開いた。倫太郎は笑った。
「噓だ噓だ。清乃の顔が見とうて噓をついた、許せ。兄は、江戸でお役に就き、ふたりを必ず呼び寄せるからな。少しの間、辛抱してくれ。こちらの様子が知りたいゆえ、ちょこちょこ文を寄越すのだぞ」
「承知しました。兄上もお手紙をくださいませね」
「ああ、わかってる。そうだな、お前に似合う小間物を送ってやろう」
互いを思いやる兄妹のやりとりに時枝が眼を細める。
倫太郎は、清乃の頭を撫でようと手を伸ばしたが、
「兄上、清乃はもう童ではございませぬよ」
と、唇を尖らせた。やはり、心配だ。清乃はここ二年ほどで、急に大人びた。



