私は若いころ、自分の美的センスに自信がなかった。そんな時、友人の会社の先輩K氏と知り合う。彼は陶芸が趣味で、長期休暇を利用して栃木県益子町の窯元で修行中だった。陣中見舞いに行く友人に誘われて、私は初めて益子を訪れた。
初めての益子町訪問
K氏の案内で歩く道には珍しい登り窯や、窯元の店がずらりと並ぶ。楽しみは春の陶器市。会場は大勢の人でごった返す。「さあ、宝探しだ」と心のなかで腕まくり。薄紫の小鉢が目に飛び込んだ。咲き切ったチューリップの花の形。1つしかない。早い者勝ちだ。たったの100円に驚いた。戦利品を友と見せ合った。
思いがけない発見
リュックに詰めて、トイレに向かう通り道。そこは舞台裏だ。陶器が雑然と積んである。私は「えっ!?」と息をのむ。なんと、あの薄紫の小鉢が10個ずつ縄で結ばれて山になっているのだ。私は力が抜けた。友人と目が合う。気持ちとは裏腹に大笑いしてしまった。
「気に入ったのだから、あなたにとっては一点物でしょ」とK氏。その言葉が胸に響く。私は身動きが楽になるような気がした。半世紀たった今でも、薄紫の小鉢は使い勝手のよい、大事な私の一点物である。
金子美知子(75) 神奈川県湯河原町



