玄関前の植栽にオリーブの木を植えたのは、いつだっただろうか。わが家が完成したのは長男が生まれた時期で、3歳年上の長女は赤ちゃん返りをし、育児休暇中だった私は常に疲れていた。子供はかわいい。だからこそ、私が守ってあげなければならない。そう思い詰める育児は、長くは続かなかった。
小児科医の言葉が心を軽くした
「お母さんが元気じゃないと、子供たちも元気がなくなりますよ」。かかりつけの小児科の女医さんは、そう言ってくれた。腑に落ちたその言葉を、私は今でも忘れることがない。オリーブの木は、わが家の子育てを静かに見守り続けていた。
春、鳩の夫婦が巣を作る
そのオリーブの木に、この春、鳩の夫婦が巣を作った。最初に気づいたのは夫だった。オリーブの木で鳩が卵を温めている。調べてみると、糞害などの良くない情報もある一方で、家族に幸福が訪れるとか、縁起が良いという話もあった。
わが家の長男は4月から東京で一人暮らしをする会社員になった。長女も独立し、私たちは結婚した当初の二人暮らしに戻った。オリーブの巣では、ひな鳥が二羽孵化し、早々と巣立っていった。
夫の「鳩ロス」と「子供ロス」
子煩悩で世話好きな夫は、それぞれの巣立ちに鳩ロスと、子供ロスになっているようだ。そんなある日、出かけようとして玄関を開けた夫は、ドアのすぐそばに鳩がいて驚いたという。「鳩の恩返しってあるんやな」。お世話になったお礼を言いに来たのだと、夫は信じて疑っていない。
谷許千晶(49) 神戸市垂水区



